夕立が来る(1/2)


「晋助!」

スパンと勢い良く開けられた高杉の自室の引き戸から、怒りを露にした八重が駆け込んできた。刀の手入れをしていた高杉は八重に見向きもせず手入れを続けるも、日常茶飯の事に気にせず八重は高杉の目の前に仁王立ちした。

「なんで一人で江戸に行ったの!?一緒に行く約束だったじゃん!江戸観光楽しみにしてたのに!」
「俺ァ交渉しに行っただけだ。遊びに行ったんじゃねェ」
「それは分かってるけど、連れてってくれるって言ったでしょーよ。晋助と一緒じゃないと船から出られないのに、ってかアンタかそう決めたんじゃん」
「お前なら勝手に降りてくと思ってたが、聞き分けのいい女に成長したらしいな」
「……酔ってトイレから数時間出てこなかった私を船から出ていったと勘違いしてぶちギレて本当に国を壊す勢いで探したの誰だっけ。あれで何人死んだ?怖くて逃げ出せもしないっつーの」
「どうせ全てぶっ壊して何もなくなる地球だ、船から出る必要ねェだろ。なんなら今からテメーをぶっ壊してやろーか」
「昼間から盛んないでくれる?高校生かって」

刀の手入れを終えた高杉は八重を畳に組み敷き足を広げそこに手を這わせた。冷静に突っ込む八重に高杉はクツクツ笑うと乱れた着物を直し、床に寝そべる八重の腕を引き座り直させると口付けをした。不満そうな八重の太ももに満足げな高杉が頭を預けて寝転ぶと、八重の頭を引き寄せもう一度口付けた。

「江戸に連れて行ってくれなかったお詫びのつもり?私別に晋助にキスされても嬉しくないから」
「ほぉ……誰にならされて嬉しいんだよ」
「分かってて聞いてるでしょ。言ったら機嫌悪くなるくせに」
「どうだかな」

目を瞑る高杉の髪の毛を撫でた八重は、そっと自身の唇に指を這わせた。過去の記憶を辿り、その時の幸せな時間をもう一度味わいたいと叶わぬ夢をみた。高杉の顔を隠す包帯に手をかけ解くと、人には見せない閉じられたままの左目が露になる。その目が最後に見たもの、それが銀時だと思うと瞼ですら愛しく思える。優しく瞼をなぞり、そっと口付けを落とした。

「キスっつーのは唇にするもんなんだよ。何回もしてやってんだろ」
「次江戸に行くとき絶対に連れていってくれるって約束するならしてあげてもいいよ」
「……考えといてやらァ」

八重の太ももを枕にしたまま寝返りを打ち背を向けた高杉に、八重の口角は上がり、その唇は高杉のこめかみに落とされた。



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