小説 | ナノ




17


閉店後の控え室で着替えを終えたスクアーロは携帯を見つめていた。



パタン


パタン



先程から何度折り畳み携帯を開いては閉じてを繰り返したことだろうか。

セコンドからもらった名刺には、おそらく本名ではない[セコンド]とう名と電話番号しかかかれておらず怪しさ満点だ。



(どうせ、遊び用なんだろうなぁ。まぁコッチも仕事だしいいけど)


VIP席でかなりの額を使わしている負い目もあり、デートの誘いを断るわけにもいかない。


(ザンザスには知られたくないんだよなぁ)


デートも仕事の内だし別に知られたからといってどうこういうわけではないが、何となくもやもやする。



パタン、と再び携帯を閉じると深く溜め息を吐いた。





「なぁにしてんのよっ」


「わっ、お前いつも急に出てくんなよぉ」


機嫌良くルッスがやってきたので慌てて名刺を隠した。

「アラ、気になるわ〜!ついに例のオーナー似の彼捕まえたのかしら?VIP席も彼だったんでしょ??」


「っ…ほっとけよ」


「あら、お節介楽しいのにい〜。…そうそう、スクちゃんちょっとだけ帰るの待ってくれる?」

「なんだぁ?」

「外にね、何かスクちゃん待ちっぽいのがいるのよねぇ。ホラ、この間の男の子?」


「山本か…っ」


にっこりと微笑むルッスーリアはそんなに心配はしていなかったが、『念の為』と言って他のメンバーを先に帰し、時間差でスクアーロと一緒に出るために残ると言った。


実は、コンビニは先日の体調不良の時に辞めた。
山本と顔を合わせ辛かったのもあるし、また過労で倒れないとも限らなかったからだ。


(逃げて何かが解決するわけじゃねぇけど)


嫌いな母親のように逃避してしまえれば何もかも楽なのかもしれない。しかし、この居場所はまだ手放したくない。



みんな帰って静かになった部屋で壁掛け時計の針がチクタク回る音が響く。



そうしてふと脳裏によぎった顔にハッとした。



(…そうか)




隣で帳簿を確認していたルッスーリアの肩にもたれ掛かるとスクアーロが呟いた。


「どうしよう…俺、好きなのかも…ザンザスのこと」



「キャッ、オーナー狙いなの?やるわね!」



嬉々としてルッスーリアが両手でハートマークを作った。そんなことされるとどうも恥ずかしい。


「詳しく聞きたいところだけれど、遅くなるしそろそろ帰りましょうか。」



時計を見るとみんなが出てから30分は経っていたので、ルッスーリアの言うとおりにした。



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