小説 | ナノ




26


いつもなら、シルヴィアは施設の門まで出て来てスクアーロが来るのをそわそわと待っているのだが今日はその姿はない。


「う゛ぉ?珍しいなぁ」



不思議に思いながら建物に入り、すぐ右手にある事務室の扉をノックした。


「う゛ぉぉい、すんませーん」


「あらっ!こんにちは。そういえば今日面会でしたね。…シルヴィアちゃん、熱出しちゃってお部屋にいるんです。ごめんなさいね…お部屋の場所、わかるかしら?」


広い室内で一人書類を読みふけっていた施設の管理者で長年見知った女性がスクアーロに気づいて立ち上がると、パタパタと近寄ってきた。


「そうなのかぁ……あ、すいません。丁度話があるので先にいいですか」


「はい、ではあちらへどうぞ」


物腰の柔らかな初老の婦人はにっこりと微笑みスクアーロを応接室へと案内した。









(なんでこんな日に熱だしちゃうかなぁ)

深く、浅く、乱れた呼吸を繰り返しながらシルヴィアは掛布を口元まで引っ張り上げた。


(もしかしたらママン、来てもすぐに帰っちゃわないかなぁ?…でも私が悪いもんね、仕方ないかなぁ)



せっかく楽しみにしていた面会日に熱を出す程に浮かれた自分を深く反省しながら熱で潤んだ目を閉じた。


(ごめんなさい)




『…シルヴィア』



「…?」


朦朧とする意識の中で聞き覚えのない深く落ち着いた男性の声が聞こえた気がする。なぜだろう、初めて聞くその声は懐かしい感じがしてとても安心する。

(だれ?)


ふわふわと夢か現実かわからないような感覚のなかで、今度は柔らかく暖かい大好きな人の声がした。



「……ル…ィア…」




「…マ…マン…」




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