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‖はじめてのおつかい 3

最後


大幅にキャラ崩壊??


ヨタヨタと頼りなさげに歩く黒髪の小さな女の子が街に足を踏み入れた。
その瞬間、街では近年稀にみる程の緊張に包まれ、皆息を殺して事が過ぎ去るのを見守っていた。


「いらっしゃいませぇぇぇ!!!」

少女の目的の店の店主は、本来目の前の少女に対して不釣り合いなほどガチガチに緊張し目を泳がせている。
そしてその視線は少女の後方へと向けられた。

「ミルク、ください!」


「はい、ただいまお持ちします!」


少女の後方に隠れるように一定の距離を保っている男性の赤い双眸が光る。





ーまだ小さな娘に一人でお使いをさせるなんて、粗野な妻らしいと言えばらしいがそんなことはザンザスには関係ない。
ただ、愛する娘に何かあってはたまらないのだ。

そう不安に思うことすら妻にとっては煩わしいことらしく、大きなため息を吐かれた。

「あのなぁ、ヴェネッサももう3つだぞぉ!?そろそろ子離れも必要だぁ。俺が3つの頃なんて・・・」

彼女が言いたいこともわかってはいる。実際ザンザスだってこの年頃には実母の元で一人で留守番をし、使いにも出ていた。
しかし、自分や妻と比べて娘たちは大きく環境が違う。大きすぎる組織のトップの子として産まれ、その職業柄恨みは何百何千と買っているだろう。
だが娘たちはまだ何も知らないか弱いお嬢様なのだ。


ーくれぐれも手を出すなよ?


もし何かあった場合は手を出すどころではない。
娘に少しでも触れようものなら何人であろうともカッ消す。


「ありがとうございましたぁぁぁぁぁ!」


その店主の大きな声にハッとして顔を上げると、ヴェネッサはその小さな体に不釣り合いなほど大きなミルクの瓶を抱えて店から出ようとしていた。


ーいかん、呆けている場合ではない。
手を出すなとは言われたが、何とか自然に娘の荷物を持ってやりたい、いややらねばならない。


ザンザスがヴェネッサの後を急いで追いかけようとしたその時、なんとヴェネッサが店の真ん前に落ちていた空き缶にその小さな足を取られてしまった。
傾く体が、それでもミルク瓶を離すもんかとぎゅっと身構えた。


ふわり



ヴェネッサの体に衝撃は一切なく、浮遊感にその美しい冬の湖のような灰青の目を見張った。


「・・・・パパン・・・・」


頭を傾けると、自身を抱き抱えた人物の顔がすぐ近くにあった。


「・・・おつかいか?」


偶然の遭遇のようにさりげなくヴェネッサにそう尋ねた。こんな気遣い、娘以外には一切した事なんて無いというのにおかしな話だ。

「うん、見て。ミルク買ったんだよ。」

小さな手が、獲得物を自慢げに眼前に掲げた。


「そうか、偉いな。」


あぁ、なぜだろうか。
娘と会話をすると自然と笑みがこぼれる。

こんなことになるだなんて、ほんの4年前には考えもしなかった。
長女はザンザスのあずかり知らないところで出来ていて妻一人で産み、初めて会ったのがほんの4年前である。すでに8つになっていた彼女は非常に賢い子で複雑な家庭環境に適応していった。
そして長女と打ち解けた後に産まれた次女は面立ちが自分に似ていたこともあり感慨深く、複雑だった時代を乗り越え4人で改めて家族としてスタートを切ったようなものだった。



(つまり、親バカというものにズッポリと足を突っ込んでしまったわけだ)


今更否定も出来やしない。


「ねぇ、パパン。一緒に帰るの楽しいね〜?今度はママンもシリィも一緒にお出かけしたいねぇ?」


ニコニコしながらザンザスの腕の中でおしゃべりをする娘に軽く相づちを打ちながら、愛する妻ともう一人の愛娘を思い浮かべながらゆったりとした足取りで帰路を歩んだ。







ー結局こうなる気はしてたぜぇ

玄関を開けるやいなや妻がその涼しげな双眸でザンザスと、その腕に抱えられたヴェネッサを見て深くため息を吐いたので彼女を引き寄せて軽くキスをしたら小一時間口を聞いてくれなくなった。





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