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‖小さな探検
ザンスク♀の娘
“何かがいるよ”
まだ幼い妹のヴェネッサがはっきりとした口調でそんなこと言うものだから、シルヴィアはこの広く薄暗い屋敷の2階にある開かずの間の前を通るのにも心臓が跳ね上がった。
「何かって、何?」
「白くて、大きいの。」
ヴェネッサが身振り手振り、小さな体をつかって目一杯その大きさを表現するが、とにかくとても大きなものらしい。
「“出して”って言ってる。私達と遊びたいんだって。」
白くて大きな何かは、ヴェネッサに時々話しかけてくるらしい。シルヴィアにはその声は聞こえないが、時折風に乗って地を這う軋みのようなとても恐ろしいうなり声が聞こえる。屋敷の皆は口を揃えて“風の音でしょう、あの部屋は壁や窓が破損していて危ないから入ってはいけませんよ”と言う。
「シリィ、入ってみようよ。」
幼いヴェネッサはとても好奇心旺盛で、その涼しげな目元やブルネットの美しい髪からして外見は父にそっくりだが性格は非常に母に似て活発だった。そして、怖い物知らず。
「ダメよ、ヴェネッサ。」
対して煌めく月のような銀髪を携え、母に似た外見ながら思慮深く冷静なシルヴィアは走り出した妹に制止を呼びかけたが、すでに彼女は2階へと続く階段を軽快な足取りで登っていってしまっていた。シルヴィアも急いでその後を追う。
シルヴィアが階段を上がりきり、門を曲がったその時、フロアに衝撃音が小さく響いた。
急いでドアの前に佇むヴェネッサに駆け寄って、強く右手を握る。
「だめ…!これは、使っちゃだめよ…!」
開かずの間だったその部屋の扉は破損し、小さな穴があいていた。この幼い妹は、その掌に破壊力を秘めた不思議な炎を宿すことができるのだ。父も同じことができるが、まだ満足にコントロールのできない彼女はその使用を禁じられている。
「…ごめんなさい…」
少し熱を帯びた小さな掌を握ったままシルヴィアは扉の穴を覗いた。
タタタッ
「!」
穴の向こうで何かが動く。
一瞬、白い影が横切ったかのようだった。
『GAAAA…』
呻き声のような獣のような声が聞こえる。
そして、暗闇に赤い何かが光った。
「きゃあああぁぁあ」
シルヴィアが思わず悲鳴を上げると、すぐさま母がやってきて2人を強く抱きしめた。
「何やってんだぁ…」
「「ごめんなさい…」」
「この部屋が気になるのかぁ?今度ちゃんと見せてやるから良い子にしてな」
“じゃねぇと、食べられちゃうからな”
母が意地悪く笑った。
完