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‖一杯の葡萄ジュース


子供の思い出






その年は、葡萄が豊作だった。
収穫真っ最中のある初秋、ザンザスはスクアーロを伴ってボンゴレお抱えのワイナリーに出向いたのだった。


「こんな時期に来てもまだ瑞々しい葡萄は美味いワインにはなってないぜぇ?」


短くツンツンと跳ねた白銀を揺らして、唇を尖らせたスクアーロがザンザスを仰ぎ見た。

「知ってる」


ザンザスはすぐさま、そんなことは百も承知、とスクアーロの頭を押さえつける。


「葡萄の収穫が見たいのかぁ?」


間抜けな顔で葡萄畑に並ぶ背の低い蔓棚を眺めるスクアーロの、押さえたままだった頭をくしゃっと崩した。


◆◆◆


ザンザスがワイナリーのオーナーと話をしている間、スクアーロは一人あたりを散策していた。
収穫された葡萄がどんどんと作業小屋へ運ばれていく中、小屋の外で女性が数人で桶を運んでいるのを見かけて話しかける。


「チャオ!それ、何してるんだぁ?」

「葡萄踏みの準備よ。アナタもやってみる?」


赤毛の少女がスクアーロに言う。少女はカリーナと言い、丁度スクアーロと同じくらいの背丈だった。

「服が汚れるわ、私の服を貸してあげる。」


◆◆◆


「…少し目を話した間に何やってんだテメエは」


突然投げかけられた声に、スクアーロは足踏みをやめてザンザスを振り返った。白魚の足は葡萄で真っ赤に染まっている。


「これ、結構しんどいぜぇ!みんなすげぇよ」


周りの女性たちはそばに現れたザンザスを意識しながらも、それまで通り足踏みを続けていた。


「なんかワイン作りって、カッコいいぜぇ」


「ふぅん?」


スクアーロが笑うと、ザンザスも笑った。



◆◆◆


「スクアーロ!」


帰路に着こうとしたその時、カリーナがスクアーロを追いかけてきて小さめの瓶を手渡す。


「さっき踏んだ葡萄のよ。…そのまま飲むには渋いと思うけど」


ワインよりも少し薄い色をした葡萄ジュースは、夕陽に透かすとまるでザンザスの瞳の色のように赤く燃えていた。
車の中で2人で開けて飲む。


「渋い」



そうして顔を見合わせて笑った。


◆◆◆

長い銀髪がキラキラと光を反射させた。


「あの時のワインをカリーナが送ってくれたんだぁ」


「少し早くないか」

ザンザスの傷の刻まれた手がテーブルに置かれた瓶を持ち上げる。


「こういうのは美味いかどうかじゃねぇよ」



甘酸っぱい思い出を飲むんだ、とスクアーロが言った。




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