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‖秋深き


秋の話続き







“栗好きじゃないんだよね”



街中でザンザスの用事が終わるのを待っていたスクアーロは、丁度道の向かいに焼き栗の屋台が止まっているのを眺めていた。そして先日栗を食べていた時にベルが栗を嫌いと言ったことを不意に思い出す。


(アイツ栗嫌いだったっけ?)

スクアーロの記憶では、毎年ベルに栗を剥いてやっていたはずだ。

ぼんやりしながら屋台を訪れる人々を眺めていると、10歳くらいの男の子と妹らしい小さな女の子が、その母親らしき女性と一緒にやって来て栗を買った。
3人は近くのベンチに座ると、女性が栗を取り出して剥くと、女の子の口にそれを放り込んだだ。
女の子は口をモゴモゴと動かしながら女性の膝によじ登り、新たな栗を要求しているようで、それを男の子は隣で見ていた。

(あ…)


女性が男の子に栗を差し出すと、男の子が首を振って断った。そして、女の子が横からそれに手を伸ばして自分の口に入れた。

男の子はじっとその女の子の様子を見つめていた。


(どっかで見た光景だなぁ?)

スクアーロが、スンッと鼻をすする。もうすぐ夕暮れ時に差し掛かり空気が冷たくなってきていた。


「なんだ、栗食いたいのか?」
「う゛ぉぉっ…熱っ」


声と共に突然、ピトッと右頬に温かいものが触れる。
振り返るとザンザスが、缶コーヒーを2つ持って立っていた。

「遅かったなぁ。」

「栗は?」

そう言いながら缶コーヒーを一つスクアーロに渡す。


「なんだぁ、それお前が食いたいだけだろぉ?」




「違う、ベルにだ」



飲み口から湯気の上がるそれを一口飲み込んだ。


「…嫌いって言ってたぜぇ?」


「嫌いなわけあるか。」


夕暮れにザンザスの吐く息が白く染まった。


「知ってる……お前が栗取ったから拗ねてるんだろぉ」


「元はと言えばお前がマーモンを膝に乗せてたからだ」



二人が顔を見合わせてふふっと笑う。



それから、屋台で焼き栗を買って帰った。






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