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‖傘、ひとつ。

学生XS









珍しく放課後まで学校にいたら、ろくなことがなかった。

サボってた分だと山のようなプリントを渡され(自業自得)追試を受けさせられ(自業自得)へなちょこにはつきまとわれ、挙げ句の果てに雨が降り出したのだった。
遅い時間になり既に人気のない玄関で、一人がっくりとうなだれる。


雨は嫌いじゃない。
しかし今日はこの後用事があるので、スクアーロはできるだけ濡れたくないのだ。


「どっかに傘残ってねぇかなぁ」

「チッ…どれもこれも折れてんじゃねぇかぁ……」


傘立てには年代物の朽ちたビニール傘や骨組みの飛び出したチェック柄の傘が無造作に突き刺さっていた。おそらくまともな傘はない。あったとしても既に盗られた後なのだろう。
堂々と傘立てを物色していたスクアーロは、ふと上級生の傘立てに目をとめる。


上級生の傘立ても、似たようなもので使い物にならない傘の群れが残っている。
その中に一本、それだけ綺麗に立てられたままの傘が見えた。

「おっ!ラッキー」


スクアーロが、その傘に近付こうとすると後ろから声をかけられた。


「おい。」


その声にスクアーロがピタッと固まった。


(な…なんでこんな時間までいるんだぁ??)

威圧感と聞き覚えのある、重低音…。ぎこちなく振り返ると、思った通りの人物がガッと足を肩幅に開いて腕を組み、まるで鬼のような形相で睨んでいた。
「う゛ぉ…ザンザスっ」


カツカツと踵を鳴らしてザンザスが近寄ってくる。

「ソレは俺の傘だ」


「えっ…マジかよぉっ…」


スクアーロを通り過ぎ、傘立てからさっと傘を抜き取る。


「嘘だけどな」


「はぁ゛っ!??」


ニヤッとザンザスが笑って、傘を開いた。


「なっ、テメェ御曹司の癖にパク傘とか使うのかぁ!」

「はっ…、関係ねえな。ただそこにあるのを使ってるだけだ。」


開かれた傘はまるで新品のように綺麗で、益々恨めしい。
ザンザスが外に一歩踏み出すと、すぐに傘が勢いを増してきた雨に打たれた。



「今日来るんだろう?」


「!」


ザンザスがほんの少しだけ傘を傾ける。‘入れ’と目で促した。



「おうっ」




喜んで傘に入ると、ザンザスがスクアーロに合わせて歩き始めた。





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