海賊 | ナノ


▼ 2

ルフィの腕の中に収まってから数秒。
時が止まったような感覚に陥った。

それから思い出したようにルフィは
顔を上げ 私を見詰める。


楽しそうな、イタズラを思い付いた
子供のような笑顔に きゅん、
と胸が高鳴った。


「一緒に海に出よう!一緒に海賊になるんだ!」

『海賊‥』


海賊とは、自由で楽しいとルフィから
聞いた。
それを聞いた時は羨ましく思い
いまの私とはまるで正反対だとさえ思った。

私はこの街を守っている。
この街から逃げたい。
しかし 私が居なくなった後、
この街は誰が守るのだろう。

もし 海賊に襲われたら?
もし 津波が街を飲み込んだら?


それから逃れる術をこの街は
持っているのだろうか。



『でも‥私‥。』

「‥悩んでんのか?」

『、はい。』


俯いて返事をすると、ルフィは
私の頭を優しく撫でてくれた。
それが尚更嬉しくて、嬉しくて、
涙で視界が歪んだ。


ーーーがちゃり。


いきなり扉が開く。
弾かれた様に顔を上げ、ルフィは
慌ててどこかに隠れようとするが
それよりも早く、扉を開けた主は
ルフィと、私を目に留めた。


『‥お母さん‥』

「母ちゃん!?」

「‥話は、聞いたわ。」


いきなりのお母さんの登場に驚き
身を崩したルフィは、話が聞かれていた
事に 直ぐ体制を整えて身構える。


『ごめんなさい、お母さん‥。
‥ 私、』

「‥ルフィくん。」


私の言葉を遮って、お母さんはルフィに
声を掛けた。
その表情を伺うと どこか寂しげで
それでもなぜか 嬉しそうだった。


「娘を、貰ってくれるんですってね」

「ああ!俺のヨメにする!」



話が飛躍している気がするが、
ルフィに迷いなくそう言われる事は
素直に嬉しかった。


「‥この子、ここから出た事がないの。
娘の彼氏が見られるなんて思わなかったから
びっくりしたけど、凄く嬉しいわ。」



お母さんから出た言葉は予想外で
凄く驚いた。
ルフィはなぜか笑っている。

お母さんは、私が能力者になってから
あまり会いに来てくれなかったから、
嫌われているのだと思っていた。


「エアルが能力者になったのは、
エアルのお父さんが原因なの。

何処からか悪魔の実を買ってきて
その能力で、娘を使ってお金儲けを
考えていたの。
娘を聖女だと街の人へ言い出し、
利用していたあの人が許せなかった。」



力強く拳を握る母の手からは
血が滴り落ちている。
それ程 怒りや後悔が大きいのだろうか。
私は 母に、それ程深く愛されていたのか。


「あの人は今 この街のトップになった。
あの人を止める事は私1人では
出来ないけど 娘を逃がす事は出来るわ。」

『お母さん‥』

「ルフィくん。この娘を大事にして。
私の大切な娘を 守ってちょうだいね。」



弱々しく笑った母を見て、
駆け寄って抱き着いた。
母はしっかりと抱き留めてくれて、
久しぶりに触れた母は小さく、
痩せ細っていた。


「そしたらよ、父ちゃん ブッ飛ばすか!」

『え‥?』

「エアルとエアルの母ちゃんがこんなに
苦しんでんだぞ、エアル達には悪いけどよ
父ちゃん ぶっ飛ばすぞ」


先ほどとは違い、真剣な顔。
私たちのために怒ってくれる。
海賊ってこんなに優しい人なのかな。

母も、驚いていた様だけど
お灸を据えてやって下さい。と
深く礼をしてお願いしていた。

ルフィはそれを見るとまた笑顔に戻る。


「絶対ェ迎えに来るから、母ちゃんと
ここで待ってろ。」

『はい、待ってますね。』


いい子、と頭を撫でられる。
そしてルフィが 1番大事だと言っていた
麦わら帽子を私の頭に乗せる。


『ルフィ‥?』

「しし こうしてれば、安心するだろ。
ちゃんと戻ってくるからな」


不安そうな顔をしていたのか、
それとも私の思いを見透かしていたのか
ルフィは明るい笑顔で私の
不安をかき消してくれた。

母は父が居ると言う 街 一番の豪邸への
行き方を伝えた。


それを聞くとルフィは
来た時と同じ様に窓から颯爽と飛び降りた。

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