あたたかいスープならここにあるよ



デザイナーという仕事は、こだわればこだわるほど終われない。先輩のアイデアを押し退いて私のアイデアが通った際にはもう大変。嬉しいよりも良いものを作らなきゃと気張ってしまう。
そんな責任や思いを抱えていれば完成までは残業残業。
ヒールには慣れたものだけれど、くたくたな私は足を引きずりながら、愛しのマイダーリンの待つマンションに向かう。

今シーズンも終わりせっかく落ち着けるのに、こんなにばたばたして2人の時間を取れないのも申し訳ない。心も体も参ってしまうよ。

ひんしの状態でがちゃりと玄関を開ければ、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「ぬっ!」
疲れなどいざ知らず、どたどたと一目散にキッチンのある部屋に向かった。
「おーおかえり」
ドアを開ければそこにはエプロン姿の愛しのマイダーリンが笑顔で迎えてくれた。
きょうもかっこいい。
一瞬で私をでれでれにさせてしまうこの男、御幸一也は今はプロ野球に所属し一軍でたたかっている。ほんとすごいかっこいい。
野球だけでなく、こうして一也が早く家に帰ってきた日にはいつも美味しい料理とあたたかいお風呂、綺麗なお部屋で迎えてくれる。ほんとに助かっている。

かずやああああと鍋をかきまわしている背中に抱きつけば、あっぶね、と慌てて火を止めた。
「よしよし。ちょうど出来たぞ」
「てんさい…」
まあなと言いながら手を洗おうと横にずれる一也と一緒に私もずるずると着いていく。
自信家なころもすき。それに一也は私をあまり怒らない。言ってもこらとかおいおいとか、呆れたように笑っている。たしか倉持くんが言うにはピッチャーには容赦ないんだっけ。全然想像つかないや。

「いつもありがとうね。本当に助かるよお」
「ん?こっちこそ、名前がいつも排水溝の掃除とか水垢の掃除とか、細けえとこまで綺麗にしてくれるし、毎回ごみ捨て行ってくれるのも助かってる」

手を拭きながらにこにこと嬉しいことを言ってくれる。

「気づいてたんだあ」
「あたりまえ」

言わずにやってたことに気づいてくれるとこも好きだあ。たまらなく嬉しくなって涙腺が緩む。疲れも相まってるのだろう。
くるりとこちらを向いた一也は一瞬片眉をあげたが、優しく微笑んで頭を撫でてくれた。その温もりに目を瞑っているととても癒される。すきだ。

「よし食うか」

そういって私を座らせると、てきぱきと食事を用意してくれた。な、なんてできるダーリンなの。
手伝う隙もなく美味しそうないや確実に美味しいだーりんお手製お料理が並んだ。最高だ。
一也も座り、一緒にいただきますと言って食べてくださいと言わんばかりのハンバーグに手をのばす。

1口頬ばればお肉の油がじゅわあっと口いっぱいに広がり、デミグラスソースとお肉のハーモニーが奏でだす。

「お、美味しすぎるっ」

涙が出るほど美味しいハンバーグだ。

「よかった。ナツメグ様々だな」
「な、つめず?」

ナツメグなと訂正されて、改めて一也は物知りだなあと。私が料理からきしダメなので本当にすごい。野球もできて料理も掃除もと家事が得意なんて強い。好きだ。

「いいよなあ、こういうの」

そういってしみじみしながらスープを飲んだ一也。多くは言わないが、良いと思ってくれてるだけで私は幸せ者だ。よきだ。
私も美味しそうなスープに手をつける。
キャベツと玉ねぎににんじんウインナーと具だくさんで栄養もとれる最強おぶ最強のスープじゃないか。

「しみる〜〜」

美味しさを噛み締めていると、だろ?と一也もはにかむ。かっこいい。すき。

「ほんと名前はにこにこしてて可愛いな」

癒しだわと言われて私は恥ずかしくなり、がた!と立ち上がった。
それはこちらのセリフです!と言わんばかりに一也への感謝と好意を思う存分ぶちまけた。
最初は驚きこそしたが、すぐににこにこ私の話を聞いていてくれる一也。
夜はまだまだこれからだ。




title by 白猫と珈琲



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