「このご時世に!!!結束バンドとは!!!どういう了見だ!!!なんだそれ!!!ダサい!!最高にダサい!!!信じられない!!!そんなもんつけられるぐらいならなぁ!!!殺された方がマシだわボケェ!!!!!」

 ハードワンは固まった。
 右手にはナイフを抜き、左手には結束バンドを手にして、これから拘束する筈の相手に怒られたのである。


しかも ダサいと


 「…………」

 手錠を取れと指示をされ、視線が僅かに男の指した足元に向かったが、一瞥しただけですぐに目の前の男―――――トートに戻った。

 この男の言っていることが一周回っても理解が出来ない。
 つまりダサいとは何の事を指しているんだ?

 こんなでも第五王子として生まれ持った男であるからして、身なりでダサいと言われた事はない。幼稚園の学芸会で月の被り物を被って30分間真顔で仁王立ちしたあの舞台依頼、「そういう恰好は止めなさい」と言われたこともない。
 つまり、ダサいとはハードワンの身なりに対して言われていない。ということは、矢張り、結束バンドに対して言われている。


 結束バンド。


 なぜこれを手にしたかと言われれば、手元に手錠が無かったからだ。鞄の中には入っているが、目の前の男に背を向けるのは憚られる。しかしこの男はそれすら待ってやると言い退けたのである。

 益々 解らない

 目の前の男はなぜ、結束バンドを嫌っているのだろう。
 アレルギー……?か……?
 ハードワンは考えた。結束バンドアレルギー。それを持っているとなれば話は分かる。手首が荒れてしまうから……手錠にしてくれと……、いや、これは不自然だ。というか我慢しろと言いたい。そしてそのくらいなら口にするんじゃないか。

 ならばなぜ、手錠を推す?手錠……

























 極度のマゾヒスト……!


 ハードワンは一層険しい表情でトートを睨み付けた。
 閃いたそういう事だ
 死と結束バンドを天秤にかけ、手錠を選ぶ等、そうとしか思えない。

 この男は、極寒の牢獄で緊縛されるという展開に興奮を覚えているのではないか
 だからこのような状況でも、敵であるハードワンにそのような申し出を易々とやってのけるのではないか。ならばこの男にはどのような拷問も効かない。つまりは痛みを悦に変換する能力を備えている以上、極限の状態に陥っても思考を凝らし、体力を温存する生命力を持っているということだ。この男の口を割らすのは一筋縄ではいかない。





 これが――――――――ココア軍――――――…………




 この男……、まさか国家レベルの公安部隊か……?


「どうした、待ってやると言ったんだから、早くしろ」


 悩みあぐねたハードワンの鋭い睨みを一身に浴びていたトートが顎を持ち上げて横柄にも催促をする。ハードワンは余計に眉間に皺を刻んだ。決断せねばならない。此処まで考えた上で、この男に手錠をかけるかどうか、だ。
マゾヒストという生き物に会ったことがない
 ここは、彼の言う通りにしてやった方が良いのかもしれない。これ以上の摩擦を減らして気を良くしてやった方が、口を割らせ易いのでは無いか。ハードワンは右足を一歩横に踏み出し、トートの言った通りに鞄へ腕を伸ばそうと動く。





 「――――――!」
 は、とした。トートの顔を睨み付けるハードワンの色違いの瞼に光が灯る。閃いた、気付いたのだ。



 マゾヒストに奉仕をしてどうする。奴らは飢える生き物ではないのか?
 つまり、此処で欲しいものを与えてしまってはこれ以上の交渉材料がなくなってしまうのではないか

 考えろ、ハードワンよ

「…………解った、後ろを向け。君を拘束する」

 互いに色が異なる瞼をまっすぐにトートに向けた。トートは暫くハードワンを眺めた後、フンと鼻を鳴らして背中を向ける。頭の上に持ち上げていた両手を後頭部で交差して貰い、親指同士を縛り拘束して自由を封じた。




…………結束バンドがランプの明かりに光る。




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そばさんと二人になってギャグに走らないわけがなかった





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