深海奏汰に消される(男主)

「なまえ、ぼくのために『きえて』ください」

延びてきた手は俺の胸ぐらを掴んで、水しぶきを上げながら噴水へ引きずりこまれた。ほんの一瞬、聞き返すヒマもなく、もちろん息なんて吸ってないから、肺の中の酸素はごぼごぼと音を立てて水面に浮かんでいく。どうして、意味がわからない。

「ふしぎにおもってますね。どうしてこんなことをするのか」

鼻の奥がツンとして水が入ってくる。必死に奏汰の手を剥がそうとしても力が強くて抵抗ができない。咳き込みながら時々、水面から顔を出して空気を吸いこむ俺に奏汰は首を絞めてきた。首を絞めるか、水責めにするか、できればやめて欲しいってのが本音だけど、どっちかにしてほしい。

「がなっ、だ、やめ」
「なまえが『きょうい』になってしまうまえに『はいじょ』しませんとね」

苦しくて世界が反転してるようだった。くすくす笑う奏汰の声が遠のいて、喉に触れている手や、背中にあたる噴水の床が、溶けてしまうような感覚。水の中は全部がぼやけて夜のせいもあってか何も見えない。奏汰はどんな顔をして俺を消そうとしているんだろう。

「……ちがいますよ。『きえて』もらうんです」

指先が痺れて抵抗する気力が落ちていく。揺れていたはずの視界が徐々に暗くなって、俺の意識は沈んでいった。

「おやすみなさい、なまえ」

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