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ミッターマイヤーはその日珍しく、同僚たちと酒を飲んでいた。同僚と酒を飲む行為自体は珍しくない。これは、古今東西そうだと言えよう。しかし、この蜂蜜色の髪の、溌剌とした、少年のような、利かん気の強い士官となると話は変わる。彼には自他共に認める親友がおり、彼の酒の相手になるのは常に彼の親友だったからである。それがこの晩なぜ同僚などと酒を飲んでいるかというと、その親友であるオスカー・フォン・ロイエンタール少佐に振られたからに他ならない。振られたと言っても決して、「お前の顔なんて二度と見たくない」等ということではなく、「今日は用があって」と断られたにすぎない。どうせ同じ部屋に住んでいるのだ。帰れば顔を会わせるのだから、酒ぐらい別の面子と飲めばよさそうなものだが、ロイエンタールほどに話のあう相手はいないのだから、と常にミッターマイヤーは言い訳していた。
「おい、知っているか? ミッターマイヤー」
同僚たちの話を聞き流し、ビールを煽っていたミッターマイヤーに、同僚の一人が話し掛けた。ミッターマイヤーは今まで通り無関心を決め込むつもりだったが、そこにロイエンタールの名前が出てきたために、気づけば前のめりになっていた。
「……フォルクマンが惚れている相手がさ、卿の親友殿らしいぞ。それで、今晩告白するんだって息巻いていた」
フォルクマンとは、ロイエンタールの同僚で、今ミッターマイヤーの目の前で話している男の友人らしい。浮いた噂の一つもない堅物なフォルクマン氏の初恋の相手が、女誑しのお貴族様だったことが彼には面白くて仕方がないらしい。しかし、そこは友人だけはある。
「珍妙な取り合わせだとは思うがな、俺は二人が上手くいってくれることを願っているんだ」
だから、女誑しの方の親友であるミッターマイヤーと、共感を持てると彼は思っているらしかった。
同僚の話を聞くうちに、ミッターマイヤーはアルコールが抜けていくのを感じた。いや、もしかしたら酔いが回りだしたのかも知れないのだが、体は熱く火照っても、頭は冷えきっていた。
ロイエンタールの隣にいるのは自分だと、それが当たり前に思っていた。だが、ロイエンタールがフォルクマンの想いを受け入れたなら、その隣にいるのはフォルクマンということになるだろう。
ーーそんなの嫌だ!
アルコールの効用で、ミッターマイヤーは隠しきれない本心を自覚していた。
ーーあいつの、気難しい女誑しの貴公子の隣に立っていていいのは、俺なんだ!
ミッターマイヤーに、初めて人を嫉妬する気持ちが芽生えた。
苛立つ心はアルコールを欲す。ミッターマイヤーはグラスを重ねながら同僚たちの会話を聞いていた。今頃ロイエンタールは何をしているか、気に掛けながら。
ーー二人でどんな話をしているのだろう? 会話は弾んでいるのだろうか? あいつが俺以外と話が合うとは思えないけど………。
「今頃奴等どうしてるかな?」
「仲良く愛を育んでくれていると、俺は嬉しい」
「おいおい、それはあんまり手が早くないか?」
「いやいや、相手はあのロイエンタールだぞ。付き合ってもいいということになって、あの美人を前に、お前、我慢できるか? 俺ならその場で押し倒す、いや、付き合ってなくても押し倒したい」
「それはいかんだろう。しかし、あのロイエンタールだ。場数は踏んでそうだな」
「ああそれそれ、それが一番心配だよな。遊んでポイの可能性だってある」

ダン!

派手な音とともに、ミッターマイヤーは立ち上がった。同僚の話に腹が立ったのもある。しかし、一番彼を駆り立てたのは、今頃ロイエンタールは何をしているか、という不安だった。驚く同僚たちを後目に、「すまん、帰らせてもらう」とだけ言いおくと、二人で暮らす官舎に向かって、一直線に帰っていった。



官舎のドアを開けると、明かりがついていた。まさか、と思い玄関に立ち尽くしているところへ、風呂上がりのロイエンタールが出てきた。
「卿、どうして……」
タオルでガシガシと髪を拭きながら、ロイエンタールはミッターマイヤーの疑問に答えた。
「ん、ああ、つまらない話だったから、途中で帰ってきた」
卿こそ早かったな、と言い終わらないうちに、ミッターマイヤーはロイエンタールの側に駆け寄った。
「ロイエンタール!」
切な気に名を呼びながら抱きついてきたミッターマイヤーを、ロイエンタールは優しく抱き締め返した。
「どうしたんだ? ミッターマイヤー。飲みすぎたのか?」
収まりの悪い蜂蜜色の髪を掻き上げてやると、さらに強く抱き締められた。
「ロイエンタール………」
幼子のように胸元に顔を刷り寄せると、バスローブの合わせ目がはだけて、ミッターマイヤーの目の前に色っぽく浮き出た鎖骨が表れた。どさくさに紛れて唇を押し付け、噛みついた。ロイエンタールの体がその瞬間強張ったのが、腕を通してわかった。
「腹が減っているのか? 外で食べてきたんだろ?」
ロイエンタールがミッターマイヤーの体を押し返そうとするが、ミッターマイヤーはますます腕に力を込めた。
「ミッターマイヤー?」
「……食べたい」
「え?」
「卿を食べたい、と言ったらどうする?」
ミッターマイヤーは、ロイエンタールの色の違う両目を覗き込んだ。軽蔑や冷笑を浮かべるのが得意なヘテロクロミアは、その時はただただ美しく煌めいていた。
「なあ、ロイエンタール。卿を俺だけのものにしたい、したいんだ」
ロイエンタールの体からふと力が抜けた。そして、吐息とともに微かな声にならない声が、ミッターマイヤーには確かに聞こえた。その言葉は、ミッターマイヤーの全身全霊を痺れさせるものだった。
「俺は、卿だけのもののつもりだ。これまでも、これからも」


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禁断のミッタ×ロイです。わがサイトではあり得ない関係ですが、アンケートで一位だったので、そのお祝いです。

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