送って、ファーター
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『ロイエンタール。起きろよ、ロイエンタール! もう何時だと思っているんだ?!』
枕元で声がして体が揺すぶられる。目を開けるとそこには案の定、蜂蜜色の髪に朝日を灯した親友がいた。
「眩しいな……」
『当たり前だ。一体何時まで寝ているつもりなんだ。休みの日になると、そうやって朝寝を決め込むのはよくないと、俺は何度も何度も言ってきたつもりなのだが!』
何時までも続きそうな、いつものお説教に辟易して、俺は蒲団に潜り込んだ。
『ロイエンタール!』
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バフ!
「ぐっ」
突然鳩尾に走った痛みに、俺は思わず目を開けた。胸の上に乗っかったまま俺を覗き込む蒼い瞳。
「ふぁーたー! おきてよぉ!もうあさですよぉ!」
鼓膜に突き刺さる程の甲高い声に、俺は蒲団を引き上げ、頭を隠した。
「ファーターは今日はお休みなんだ。だから、もう少し寝かせてくれ」
しかし、3歳の子供にはそんな大人の事情は通用しないようで、胸の上で跳ねて「ふぁーたー、おきてよぉ」を繰り返す。それでも、今日は久し振りに取れた休日なのだ。今までろくにとれなかった睡眠時間を、取り返すことに専念させてほしい。
「フェリックス、もう少し寝かせてくれ。頼むから……」
布団の中からの訴えに、返事をしたのは体の上の息子ではなかった。
「いい御身分ね。皆が忙しくたち働いているのに、一人朝寝とは! たまの休みなんだからフェリックスに構ってやったらどうなのよ!」
刺々しい言葉の発信者は、見ずともわかる。夢のなかではミッターマイヤーに説教され、現ではエルフリーデに嫌味を言われ、散々な目覚めだ。
「たまの休みなんだから、もう少し寝かせてくれ」
という主張を試みてみるものの、ヒステリックになった女には通じない。
「滅多にない平日のお休みなのよ! フェリックスがファーターと幼稚園に行きたいんですって!」
結局、二人に布団を剥ぎ取られ、俺の『休日』は終わった。

着替えて食堂に降りると、もう皆食事は済んでいた。俺は朝食はとらないからいいと言えばいいのだが、普通待っているものではないのか?
「お寝坊な誰かさんを待っていたら、幼稚園に遅れてしまうものねえ」
構わないさ。これくらいのことを気にしていては、この女とは暮らしていけない。俺とてその程度の弁えはあるのだ。
エルフリーデの発言は聞かなかったことにして、フェリックスに話し掛けた。最近カタコトで一生懸命喋ろうとするようになった。
「フェリックス、幼稚園は楽しいか?」
「うん、たのしい」
「昨日は何をして遊んだんだ?」
「ゆーりせんせいが、おえかきしましょうっていったけど、かーるくんがぼーるなげて、ばんってなったから、ざむえるがおそとにいって、それで、それで」
「そうか、楽しかったな」
なんのことやらサッパリだが、わかったふりをする。俺とてこの程度のことはできるのだ。
「もう時間よ。コーヒーは帰ってからでいいでしょ?」
俺は鷹揚に頷いてフェリックスの手をとった。
「それでは行こうか。フェリックス、ムッターにご挨拶して?」
「はーい! むったー、いってきまーす!」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」

おしまい



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ロイエンタールファミリーの一コマです。何だかんだ言っても、幸せなのですよ、このオスカーは!例えエルフリーデの尻に敷かれているように見えても、そうさせておいてやる度量が彼にはあるのです。ガンバレーと応援したくなる、健気なファーターなのです。

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