lache einmal mehr(1)



 オスカー・フォン・ロイエンタールはいい意味でも悪い意味でも目立つ生徒だった。士官学校を主席で入学し、その席次を他に譲ったことがないこともその一つ。貴族的な美貌も、希有な金銀妖瞳も欠くことのできない彼の要素だ。しかし、彼のまとう雰囲気ーー冷たくて傲岸な態度が引き寄せた数々の表沙汰にはなっていないトラブルが、彼を悪い意味で有名にさせていた。だから、クラスメイトたちは適当な距離を保ちつつ、遠巻きに彼を見ていた。
 ただ一人を除いては・・・。

「ロイエンタール!お前はどう思う?」
必要以上の大声で名前を呼ばれ、ロイエンタールは窓の外に向けていた視線を教室の前方に立っているオレンジ色の髪をした大型のクラスメイトに移した。
ー ーまたか・・・。
 なにやら議論をしていたようで、今はそのまとめも大詰めのところにあるようだ。こんな学業とは全く関わりのない時間など、たまさかの休息時間と心得ているロイエンタールは、議論になったいきさつも、その過程も興味はなかったし、頭にも入ってきていなかった。
「特に、ないな」
気のないことがあからさまな返事にも関わらず、声をかけたビッテンフェルトは満足げに頷いた。ビッテンフェルトの隣に立っている、クラスのまとめ役を担任の教官から仰せつかっているワーレンは、ロイエンタールをちらりとみやり、肩をちょっと上げる仕草をした。
 ビッテンフェルトは何かある度に最後にちょっとロイエンタールに声をかける。今回のように気のない返事や、時には冷笑で もって返したとしても、まったく気にかける風でもなく、機会があるとまた同じようにしてくる。煩わしく思えるほどに。
 このようなやりとりをクラスメイトの前で繰り返ししていたために、ロイエンタールの預かり知らぬところで、ビッテンフェルトとワーレンは、彼の数少ない友人と目されるようになっていた。もちろん、本人の耳に入ったならば冷然と否定していただろうが・・・。幸いにもビッテンフェルト以外にロイエンタールに積極的に話しかけようとする勇者はクラスメイトにはいなかった。

 ビッテンフェルトは不満だった。自分自身にではなく、ロイエンタールに対してである。
 例えつらいことでも苦しいことでも退屈なことでも、心の持ちよう次第で楽しく感ずることができる。 日々の一つ一つの出来事を前向きに楽しむことが、充実した生活、しいては充実した人生を送ることに他ならないと信じている彼は、毎日をさも退屈そうに、無関心で無表情で過ごしているロイエンタールが気になって仕方がない。
 仕方がない、で済ませてしまえないのが彼の性分である。明確な意志を持って、奴を、ロイエンタールを彼が思うまっとうな道に引きずり出してやりたいと思っていたりする。
 彼は正しいと信じることをためらうような軟弱な男ではなかった。
 だから、彼はことある毎に声をかける。いきなり強引なことをすれば二度とこちらからの接触を受けようとしないのは、さすがのビッテンフェルトにもわかっていた。
 声をかける。最初は無視されるかもしれないとも思った が、意外に律儀な性格をしているのか、返事だけは返ってきた。たとえ内容はなくともそのつながりが端緒になるとビッテンフェルトは信じて、そしてその糸を少しずつたぐり寄せるように、距離を縮めようとしていた。
 その甲斐あってビッテンフェルトをロイエンタールの唯一に近い友人として周囲がなんとなく感じるまでになっっていのだが、本来鈍感な彼はそんなこととは知らなかった。

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