或る夜の出来事



或る夜の出来事


1
 ベルゲングリューンは我が耳を疑った。まさか、そんなことがあるはずがない。まさか、私の閣下が!
「おい、ベルゲングリューン、聞いているのか?」
 はっ、申し訳ありませんと謝っておきながら、ベルゲングリューンはロイエンタールが何を言っていたのか、全く思い出せなかった。理性も本能も、彼の全てが愛しい人の言葉を拒絶していた。そんなこと、全く容認できることではなかった。だから、彼は恭しくも彼にとっては唯一無二の人の言葉をスルーしようとした。しかし、あのロイエンタールかそれを許すはずもなかった。
「リュミエールに夕食を誘われた」
「わああ!」
「……」
 歴戦の勇者のあまりにも子供じみた態度に、ロイエンタールはあからさまに眉をひそめた。
「ベルゲングリューン……」
 ゆったりとした部屋着を着たロイエンタールが、3人がけのソファーに座るベルゲングリューンの隣にピタリと寄り添った。ふわりとシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
「お前は何をそんなに嫌がるのだ。ただ食事をするだけだろ?」
「リュミエールと……」
「そうだ」
 ベルゲングリューンは上目遣いに色違いの瞳を見た。そこには疚しさなど微塵もなく、あるとすれば己に対する愛しさのようなものであったので、彼はぐっと嫉妬心と独占欲を飲み込んた。
「あまり遅くならないうちに、帰ってきてくれますか? ……いや、帰ってきてほしいです」
 ロイエンタールはベルゲングリューンの首に今日腕をまわし抱き込んだ。
「なんだ、寂しがりやだな」
 かわいいやつだと癖の強い髪に頬を寄せた。そのままぎゅうぎゅうと抱きしめていると、このかわゆい男を喜ばせてやりたくなった。
「ハンス、ベッドに行こう。それとも、このままここで?」
「電気を点けたままでもよいのですか?」
 いつもなら許さぬことだが、今晩は何だかなんでも許してやりたくなった。
「あまり見るなよ」
「はい」
 ベルゲングリューンはおそらくは守れない約束をして、ロイエンタールをソファーに押し倒した。


2
 レッケンドルフは不機嫌だった。久しぶりの休日だというのに、朝早く、それも良識のある大人なら絶対にしないと断言できる程の早朝に、上官に押しかけられたのだ。インターフォン越しにお引き取りを願ったが、「総督閣下の一大事」と言われては、追い返すこともできなかった。
 切羽詰まった様子ながらも、時々生あくびをかみ殺す様子に、昨夜の首尾が上々であることを感じ、レッケンドルフはやはり追い返すべきだったとベルゲングリューンを招き入れたことを後悔した。
「昨夜は随分ご首尾がよかったようですね」
「え?」
 ベルゲングリューンの脳裏に、昨夜のロイエンタールの痴態が鮮明に蘇った。そのだらしなく緩んだ表情に、レッケンドルフはこれみよがしに大きなため息をついた。
「帰ってもらってもいいですか? 私はまだ眠いのですが……」
「何を言う! 閣下の一大事だと言ったではないか!」
 ベルゲングリューンは今晩ロイエンタールが経済顧問と食事に行くことを話した。
「それで、私に何の御用ですか?」
「あの男が、俺のオ……我らの総督閣下にちょっかいを出さないように、見張ってほしいのだ!」
「……なぜ小官が? あなたがなさればよいことではありませんか?」
「俺は、今日はどうしても外せん仕事がある」
 ああ、とレッケンドルフは思い出した。今日は先日行われた軍事演習の分析評価会議があった。
「それに、今度は絶対に来るなと念を押された」
「それは、私も同様だと思うのですが……」
 二人には前回の失態がある。
「いや、卿は違う。直接言われたわけではないのだからな」
「弱い根拠ですね」
「頼む、レッケンドルフ准将! あの人を疑うわけじゃない。ただ、俺の知らないところであの男と二人っきりでいることが許せないんだ!」
「……」
 嫉妬に狂った男にかける言葉はなかったが、ロイエンタール大事なのはレッケンドルフとて同じだった。二人きりで食事に出かけるあのリュミエール氏に嫉妬ほどではないものの、ヤキモチめいたものを感じるのは彼とて同じだった。
「護衛は付けるのですよね? それで小官は何をすればよいのですか?」
 どうせ何も予定のなかった休日だった。浮気調査の探偵ごっこをするのも悪くはないかとレッケンドルフは思うことにした。


3
 リュミエールはこの状況に胸が震えてしかたがなかった。惹かれてやまない美しく高貴な人が、自分のテリトリーとも言える馴染みの店で、今目の前に座っている。目立たないように地味なスーツを身にまとい、自分が以前贈ったメガネを掛けて! よく見るとカフスボタンやタイピンは宝石があしらわれていて、この人の品の良い趣味がうかがえ、それもまた嬉しい。
「お越しいただいて光栄です。オスカーとお呼びしても?」
 食前酒を掲げて尋ねると、同じようにグラスを掲げながら、
「仕方あるまい。このような場で姓を呼ばれては差し障りがあるからな」
とロイエンタールは答えた。
「では私のこともアランと」
 郷に入りてはとは言うものの帝国では男同士が名を呼び合うのは余程親密な関係でなければないことだった。どことなく居心地の悪さを感じながらも、語らう言葉が同盟語であることが何となく救いのように感じるロイエンタールだった。
「その眼鏡、使ってくださっているのですね」
「ああ、どうもこの目は厄介でね。これがあると気を遣わなくて済む」
「フフッ、あなたがそう言っていたとうちの技術者に教えてやりたい。使い途ないものを開発したと気落ちしていたからね」
「使い途か……。確かにあまり思いつかないな」
 リュミエールは手を伸ばしてロイエンタールの眼鏡を外した。
「この薄暗がりでは、瞳の色の違いもそう気にならないから」
 手にした眼鏡をテーブルに置きながら、リュミエールは一人愉悦に浸っていた。
「今度はネクタイをプレゼントしますよ。それともスーツのほうがいいかな」
 贈ったものを自分の手で剥ぎ取る場面を想像しヤニ下がるリュミエールに、ロイエンタールは全く違うことを考えていた。
「アラン、私のこの服装は場違いなのだろうか?」
「え? そんなことないけど、どうして?」
「ネクタイやスーツを贈ると言うから、同盟のセンスでは私はおかしな格好をしているのだと思ったのだ。違うのか?」
「違うよ! まったく全然、そんなことはない、君はいつだって素敵で魅力的だ!」
 ロイエンタールがぎょっとするほどの大げさな身振りでそう言うと、突然リュミエールは気障ったらしい顔を作ってロイエンタールを見つめた。
「君も女性によくドレスを贈ったでしょう? それと同じだよ」
 自分が贈ったものを身に着けているのを見る優越感、そして、それを脱がせる愉しみ。
「いや、ドレスは……。欲しいと言われるままに買ってやったことはあるが、あまり贈り物などはしたことがないな」
「へえ、そうなんだ」
 さすがは宇宙一の色男は違うと感心し、ふと思いついたことを尋ねてみた。
「もしかしてオスカーの場合は、女性に身に着けるものを贈られることが多くなかった?」
「ん? 言われてみればそうかもしれない。ネクタイや時計や靴、下着を貰ったこともあったな」
「わかるなあ、その気持ち」
「どういう気持ちなんだ?」
「君に自分の選んだものを着せたいという気持ちだよ」
 そして、それを脱がせる歓び。
「いやあ、わかるなあ、本当に」
 ロイエンタールと付き合った女性たちはそれを味わったのだ。
「羨ましい」
つい本音がこぼれ出るリュミエールだった。


4
 バルナバ・ブッチは待ちに待った知らせを、ターゲットの馴染みの店に張りこませた仲間から受けた。
 ブッチはいわゆる街のゴロツキで、ハイネセンポリスが戦後の混乱下にあっては、それに乗じて様々な悪事に手を染めたものだが、街が平和を取り戻していくに連れ、稼ぎも少なくなり住みにくくなってきた。さらに軍警察にも目をつけられ、新天地を求めて辺境の惑星にでも高飛びを考えるのだが、まずこの星を正式な手続きを踏んで脱出することなどできるはずもなく、ならば力ずくでと今回の計画をたてたのだった。
 ハイネセンで最も金を持っていそうな小僧アラン・リュミエールを人質にとり、小型宇宙船を用意させる。その後は辺境に行くもよし、海賊になるもよしだ。リュミエールには馴染みの店が多々あったが、その中でも特に押し入りやすそうなレストランに目標を定め、獲物が掛かるのをひたすら待ち続けた。そして、その日がやってきたのだ!
「よし、今晩決行だ!」
 ブッチは仲間に連絡を入れ、襲撃に備えての準備に入った。


5
 レッケンドルフはロイエンタール達がいるレストランが面した道路に停めた車の中にいた。右耳に突っ込んだイヤホンからは、聞き慣れたロイエンタールの声が聞こえていた。相手のリュミエールの声も鮮明に聞こえる。さすがは帝国軍の誇る技術部だ。タイピンほどの小さな物にも仕込める高性能の盗聴マイク。あまりの小ささに電波の届く距離が短いのが欠点ではあるが。
 ハイネセン名物フィッシュアンドチップスをかじりながら、レッケンドルフは二人の会話を盗み聞いていた。ベルゲングリューンが危惧していたとおりリュミエールはロイエンタールを口説く気まんまんだ。しかし、当のロイエンタールは積極的なリュミエールからのアプローチをのらりくらりとかわしている。いや、かわしているのではないかもしれない。以前から彼は彼の直属の上官に対して、天然疑惑を持っていた。
ーー天然を装いつつ相手をケムに巻いているなら、やはり魔性と言うべきか……
 会話を聞き流しつつ、むーんと腕組みしていたところ、コンコンとドアガラスを叩く音がした。見ると最近新設されたばかりの警察隊の制服だ。ウィンドウを下げるといきなり銃を突きつけられ、車外に引きずり出されて、後ろ手を取られ車体に押し付けられた。
「こいつインカムを付けています!」
 レッケンドルフの耳のイヤホンを見つけ、警察隊は色めき立った。
「お前、立てこもり犯の仲間か!」
「立てこもりってッ」
 今まで以上に強く押し付けられ、レッケンドルフは息が詰まった。イヤホンを取り上げられ、銃を突きつけられ、レッケンドルフは身分を隠したままでいることはできないと観念した。
「私はレッケンドルフ准将だ!」
「レッケンドルフ? 誰だそれは!」
 警察隊も凶悪犯罪を前にして興奮状態にあり、准将の階級如きに反応しない。助けを借りると思うと癪で仕方がないが、ここはあの男の名を出すしかなかった。
「総督府のベルゲングリューン軍事総監に連絡をとってくれ!」


 その頃、道を挟んだレストランは静かな恐慌に陥っていた。
 家族や恋人の和やかな団欒は、突然の乱入者によって唐突に終わりを迎えた。拳銃や小銃やらで武装した十名近くのいかにもガラの悪そうな男たちだった。彼らは統率のとれた行動でリュミエールを拘束すると、残りの客を一所に押し込めた。
「こいつの連れは?」
「トイレに」
「逃がすなよ。捕まえろ!」


6
 レッケンドルフは警察隊にかけられた疑惑をなんとか晴らした。代わりにベルゲングリューンの依頼で行っていた出歯亀行為まで知られることになってしまった。まさか嫉妬に狂った夫の代理などとは言うこともできず、そこは総督閣下の護衛の一環で押し通した。
 警察隊の指揮隊長その他もろもろを引き連れて、レッケンドルフは自分の車に戻ってきた。
 ーー閣下、ご無事で!
 祈るような気持ちで周波数を合わせると、車載スピーカーから思いがけず穏やかな水音が聞こえてきた。


 ロイエンタールは手洗いをしていると、背後の扉が荒々しく開いた。鏡越しに見ると小銃を構えた覆面の男が立っていた。
「手を上げろ。大人しくこちらに来い!」
 ロイエンタールは男に向き直ると、銃身を掴み銃口を逸らすと自分の方に引き寄せた。思わぬ方向にかかった力にたたらを踏んだ男は、ロイエンタールの懐に倒れ込んだ。すかさず小銃を奪い取ると、その銃床で男の顎を殴りあげ、気絶して床に転がった男の眉間に照準を合せた。まさに引き金を引こうとしたとき、再びドアから人影が現れた。
「閣下、殺されてはなりません」
「卿は?」
「ジーベル少佐です」
「状況を説明せよ」
 ジーベルは気を失い床に転がったままの覆面の男を後ろ手に縛り覆面を剥ぎ取った。まだ若い男だった。 
「襲撃犯はこの男も含め8・9人、リュミエール氏が狙いのようです」
「なるほど。で、目的は?」
「逃亡用の宇宙船のようです」
「ほほう。なぜわかる?」
「先程首謀者らしき男が電話をかけていたのが聞こえました」
 ロイエンタールはまだ目を覚まさない男を見下ろした。この男から聞き出さなくてもこの男の様子からわかる。
「敵は素人だな」
「はっ。小官も同意見です」
 ロイエンタールはジーベルに小銃を持たせ、自身は護身用のブラスターを手にとった。
「どうするにしても、敵の配置を確認したいが、こうも暗いとな……」
 物陰に隠れてホールを伺うが、照明は消されブラインドも下ろされているため、僅かに人影が感じられる程度だった。
 その時、パッと一瞬ホールが明るくなった。外から車のヘッドライトに照らされたようだった。
「!」
 一瞬の出来事だったが、場数を踏んできた二人には十分な時間だった。
「タイミングがようございました」
 ジーベルは偶然の僥倖だと思ったようだったが、ロイエンタールはあまりのタイミングの良さに不自然さを感じた。レストランの面した道路は片側3車線で通行量は少なくない。車のヘッドライトは常にここに届いていても良いはずなのに、ここまで暗闇を作っているのは、すでにこの周辺に規制線が張られている証左に違いなかった。
「もう一つ、確認したいことがある」
 ロイエンタールが低く言うと、再びホールは白く照らされた。襲撃犯は騒ぎ始めた。取り巻く警察隊に対して電話越しに文句をつけているのがここまで聞こえる。
 ロイエンタールはジーベルを再びトイレに引き込んだ。
「どうやら盗聴されているようだ」


7
『俺か卿に盗聴器が仕掛けられている、まあ、おそらく俺だろう』
『それは、何ということを!』
『いや、総督府の機密を盗もうという輩ではない。だいたい見当もつく』
『は、はあ』
『レッケンドルフ』
「はっ!」
 レッケンドルフはカーステレオからの声に直立不動の姿勢をとった。


「準備が整い次第、即刻作戦開始だ。頼んだぞ」
 言い終えるとロイエンタールはジーベルに覆面を被せた。
「行こう、あまり戻りが遅いと怪しまれよう」
 ロイエンタールはブラスターを背中側のベルトに挟むと後ろ手に縛られた風を装った。
「ご無礼をいたします」
「構わない。遠慮なくやってくれ」
 ジーベルは一つ頭を下げると、ロイエンタールの襟首を掴んだ。そしてそのままホールに引きずるように連れていき、人質の溜まりに投げ込んだ。


 カーステレオはそれ以降静かになった。犯人らしき声が遠くに聞こえる。音量を上げると、交渉班の警官と主犯格の男の声が聞こえた。ロイエンタールの指示を受け、レッケンドルフ准将と名乗った男が各所に連絡をしている。準備が整うまではセオリー通り、犯人の要望を聞きつつ人質の解放を求めていくのだ。
『こわいよう』
「子どもだ! 子供もいるのか?!」
 内部の様子がつかめない警察隊は、幼い声に少なからず狼狽した。子供の声は犯人を刺激することもある。がんばれ、ガマンだ。カーステレオの声を聞いた警官たちは届かないとわかりながらも、思わず声をかけた。
『怖いのか?』
 それは微かな囁きだった。だが、そこにいる誰もがその声の主を理解した。
『こわい』
『大丈夫だ。怖いのならムッティーにもたれて目をつぶっていろ』
『ムッティー?』
『ママのことだ』
『ほんとにだいじょうぶ?』
『ああ、君がじっと大人しくしていたら』
『うん、わかった』
 再び訪れた沈黙に、みな胸を撫で下ろした。


8
 ブッチは苛立っていた。アラン・リュミエールというハイネセンポリスで屈指の要人を人質にとったにも関わらず、こちらの要求するものは何一つもたらされたい。それなら人質の一人二人を殺して見せ、こちらの本気度を見せてやるかなどという、凶悪な意識が首をもたげ始めた。
「クソッ」
 苛立ちが頂点に達しようとしたとき、空気を切り裂くプロペラの音が聞こえた。ようやくか、と思い外の様子を見ようと窓を覗き込んだとき、強烈な光がブッチの目を射抜いた。
 悲鳴にならない悲鳴を上げ、目を抑えたとき、室内で銃声が響いた。
「おい、やめろ!」
 パニックに陥った仲間か発砲したと思い、ブッチは怒鳴ったが、次の瞬間太腿に熱い衝撃を感じてその場に崩れ落ちそうになった。
「アラン、しゃがめ!」
 リュミエールの頭越しに、なんとかその場に踏みとどまったブッチの右肩をロイエンタールは撃ち抜いた。その直後、雪崩のように武装した一団が踏み込んできた。
「閣下、ご無事で?!」
 先頭には白兵戦を得意とする機動部隊の隊長がいた。
 思いがけず内側からの攻撃を受け、襲撃犯はたいした反撃もできないままあっけなく鎮圧された。
「オスカー! ありがとう!!」
 リュミエールは戦闘を終えたばかりのロイエンタールに抱きついた。乱れた髪と服装が彼の活躍を表していた。
「アラン、君もよくやった。服せず抗せず、立派な態度だった」
「ううッ、君がいたから、君にみっともないところは見せたくないから頑張れたんだ。オスカーのおかげだよ」
 抱きついたまま離れようとしないリュミエールに、警察隊の隊長が声をかけた。
「ミスター、お怪我はありませんか? 申し訳ありませんが、事情聴取にご協力をいただきます」
 リュミエールは渋々の体で離れていった。
「ぼくもえらかった?」
 大きな軍人に抱えられた小さな男の子だった。ロイエンタールは、
「ああ、よくがんばったな。えらかったぞ」
と言って、小さな頭をくしゃっと撫ででやった。男の子は嬉しそうに笑って連れて行かれた。


 戦闘の後の殺伐としたレストランのホールでロイエンタールはレッケンドルフとベルゲングリューンを迎えた。
「閣下、よくご無事で」
「ジーベルが殺すなというから手間取っただけだ。殲滅してよかったならもっと早くケリはついていた」
「閣下……」
「冗談だ。市民の前で総督府のイメージを下げることはせんよ。それより……」
 ロイエンタールの青い目がキラリと光った。
「卿らは俺に言わねばならぬことがあるだろう?」
「ははっ」
 ベルゲングリューンとレッケンドルフは揃って頭を下げた。
「だが、それも後だ。今日は疲れた。まずは帰って飲み直すぞ。ジーベル、卿も来い」
 ロイエンタールは3人の軍人を引き連れて、人気のない裏口から外に出た。


 その日のアラン・リュミエールを人質にとった立てこもり事件は大きく報道されたが、その解決に総督閣下が関わっていたことを報じたものは一つもなかった。




〈終わり〉


 


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