Die Hände(4) |
Die Hand, die verbunden wird 昨夜、仕事で帰宅が遅くなったベルゲングリューンは、ワグナーが用意してくれた軽い食事を済ませた後、自室に引き取った。そこはロイエンタール邸に用意された彼の私室であったが、使うことは余りなかった。なぜなら、ロイエンタールといるときは、ロイエンタールの私室に入り浸り、そこで夫婦生活を送っているからだ。主人の私室には彼らが過ごすに快適な居住空間が調えられており、二人の密やかな愛の巣であった。だから、この部屋はベルゲングリューンにとって、贅沢なクローゼットのようなものだった。だが、この夜のように、彼の帰りが遅くなったときは、多忙なノイエラント総督閣下の眠りを妨げぬよう、この私室を使うときがあった。いつでも清潔に整えられた冷たいシルクのシーツに潜って彼が思うのは、同じ屋根の下に眠る愛しい人のことで、その人の面影を胸に抱けば、すぐに温かな眠りに落ちるのだった。 だが、この晩は違っていた。 脱ぎ捨てた軍服を椅子の背凭れに掛け、シャワーを浴び終えて、ベルゲングリューンがベッドの上掛けを捲ると、信じられないものが彼の目に飛び込んできた。 「ななななな何をしているんですか?!」 そこには、寒さに身を縮めた彼の最愛の人がいた。 「寒い。早くしろ」 素早くロイエンタールの隣に身を滑り込ませながら、「なぜここに?」と問うと、「それは俺が訊きたい」とベルゲングリューンの胸に潜り込んできた。 「俺はあちらにいるのに、お前はどうしてここに来るんだ」 半分疑問、もう半分は不満を滲ませたような声だった。 「それは、もう貴方がお休みになっていると思ったからです」 「俺が寝ているから………、出来ないからか?」 「ち、違います!」 ここできっぱりと否定しておかなければ、あとあと厄介なことになるのは目に見えている。ベルゲングリューンは、総督閣下に提出するレポートのごとく、簡潔かつ詳細な説明を試みた。 「ここのところ閣下はご多忙を極められおり、睡眠も十分に足りているとは言いかねます。今宵は偶さかのお早いご帰宅ご就寝。私が途中ベッドにお邪魔することで、お休みの妨げになってはと思い、寂しいのを堪えてこちらに参ったのです」 腕の中のロイエンタールがクスリと笑うのが、肌に直接伝わった。 「寂しいのを我慢して?」 はいとの返事の代わりに、艶やかな暗褐色の髪に口づけた。 「お前は間違っている」 ベルゲングリューンの胸元からくぐもった声が微かに聞こえた。 「どんなに疲れていても、こうしていると身体の奥底から、消えかけた灯火が再び燃え盛るような、荒ぶる海が凪ぐような、そんな心持ちになるのだ」 ロイエンタールの言葉は、心地よくベルゲングリューンの鼓膜を震わせた。 「何時間寝るかなど関係ない。お前とこうすることが、俺には必要なんだ」 癒しなどという安直な言葉はロイエンタールは使わない。しかし、その心はベルゲングリューンにもよくわかる。それは、彼も同じ思いを抱いていたから。 「私もです。私にも貴方が必要です」 「なら、もうこんなことはするな。俺を一人にせぬと約束しただろう?」 「そうでした、そうお約束しましたな。これは悪いことをいたしました」 素直に謝ると、ベルゲングリューンの胸に伏せていた顔をロイエンタールは上げた。そして、吐息で、 「もうしないというのなら、今回だけは大目に見てやる」 と言った。ベルゲングリューンはその色違いの目に誘いの色が浮かんでいるのを見たような気がして、緩く閉じられた唇にキスをした。啄むようなキスを暫く続けた後、熱を持ち始めた身体を絡ませて、深い口づけを交わした。舌を絡ませ淫靡な水音を立てながら互いの身体をまさぐった。ベルゲングリューンが手に触れた胸の飾りを押しつぶすと、ロイエンタールがピクリと身を捩る。その反応に自らの欲望が固く熱を持ち始めるのがわかった。 「あの……お疲れではありませんか?」 上からのぞき込むようにして問えば、癖の強い赤茶色の髪を掻き抱くように白い腕が伸びてきた。 「ハンス……」 「はい……閣下」 「もっと……」 耳元で囁かれた声に、さらに下半身に血液が集まるのがわかった。 「御意……」 ベルゲングリューンはロイエンタールの白い喉に食らいつくような熱い口づけを落とした。 「待て! ハンス……んんっ!!」 声にならない嬌声をあげ、身体の下でロイエンタールが震えた。ベルゲングリューンを受け入れている部分もキューッと彼を強く締め付けた。 「閣下、いかがなされましたか?」 熱い体温に弾む息づかい……これままるで達した後のようではないか。ベルゲングリューンはシーツと熱い身体の間に手を潜り込ませた。そこは熱く濡れていた。 「閣下……」 この夜、ロイエンタールの身体に負担をかけないよう、ベルゲングリューンは背面伸長の体位を選んでいた。自然ベルゲングリューンの動きに合わせてペニスをベッドマットに押しつけられたロイエンタールはその刺激で達してしまったようだった。 「一人でイってしまわれたのですか?」 汗で湿った暗褐色の髪を掻き上げた。激しい息づかいのままじっとりと視線を向けてきた愛しい人に、ベルゲングリューンはなにか大きな失態を犯したような気持ちになり、その思いのまま彼は力なく濡れそぼった愛しい花芯を握りしめた。 「申し訳ありません……」 「あっ、やめっ……」 達したばかりで敏感になっているものに与えられた新しい刺激に耐えかね、ロイエンタールは身を捩った。背面から浅く挿入されていたベルゲングリューンの逸物はチュポンと音を立て抜けた。 もう二度と本来の用途に用いられることのないだろう愛しい人の陽物を、ベルゲングリューンは堪らなく愛しく思っていた。女陰から与えられる快感を知り尽くしているものに、これからは自分がそれ以上の悦楽を味わわせてあげたい。いや、そうするのが自分に与えられた使命だと。 「イヤ! ァん……ハンスっ バカ やめろ!」 竿を握りながら鈴口をなぶると、ベルゲングリューンの手を引き剥がそうとしていたロイエンタールの爪が、手の甲に食い込むのを感じた。痛みに耐え、今度はベルゲングリューンがロイエンタールの最も弱いところに爪を立てた。 「ッ、ハァ…んン!」 背中から抱き締める身体が僅かに震え、すぐにくたりとなった。しかし、ベルゲングリューンの手の中のものは熱く硬度を保ったままだ。手を濡らすそれは、さらりとした液体だった。 「『潮』ですか?」 「…………」 何も言わずに睨み返してきた濡れた瞳は、ベルゲングリューンの緑の瞳と目が合うと、はあっと大きく肩を落とした。 「ハンス…もう、早く来い」 「あ、はい」 ベルゲングリューンは自身を見た。猛り上がったそれは触りもしないのに、ダラダラと物欲しそうに涎を垂らしている。 「腰を、上げてください」 同じ轍を踏まないようにそう声をかけた。ロイエンタールは気だるげにからだを動かし獣の姿勢をとった。無防備にさらけ出された白い双丘の間の窄まりは、濡れてひくついていた。 ーー下の口も俺を欲しいと言っている…… 罵られること請け合いの言葉を飲み込んで、己を愛しい人の胎内に呑み込ませた。四つん這いになった腕が震え、付いた手がシーツを握り締めて白くなった。トマホークを片手で振るうこと人にとって、二人分の体重を支えるなど、普段なら訳もないことかもしれない。しかし、この夜はもうすでに一度絶頂を極めているし、珍しく潮まで吹き上げている。震える腕は、すぐに限界が来るだろう。 ベルゲングリューンは両腕を回してロイエンタールを背中から抱き締めた。そのまま抱き上げ背面座位の形になった。自重で今まで以上に深く穿たれ、ロイエンタールはいやいやをするように首を振った。腰の上に座らせたまま両手を身体中にさ迷わせ、舌で耳裏の弱い部分を擽ると、ベルゲングリューンに絡み付く熱い肉壁がまるで生き物のように蠢いた。更に身体を密着させ、ロイエンタールの項に鼻筋を付け、このままイってしまいそうだ、と思ったときだった。 「ハンス…ハンスッ!」 切羽詰まったような声がした。 「どうか…なさいましたか?」 掠れる声で応えると、ロイエンタールはアッアッと切なく喘ぎ腰を揺らした。 「もっと……もっと激しく………動け…ハンス!」 「……!!」 この体位だと腰が使いにくい。深く穿たれたまま性感を高めに高められたロイエンタールが、珍しく音を上げたのだった。 ベルゲングリューンはロイエンタールを腰に乗せたまま、ベッドボードににじりよった。そして、膝立ちにさせると手を壁に付くように誘った。足の間に身体を割り込ませ、左の手をロイエンタールの手に重ねた。空いた手で濡れて震える花芯を握りしめる。 「ああ…オスカー!」 大きく突き上げると甲高い叫び声を上げて白い背中がしなった。腰使いに合わせて前も擦り上げる。甘い嬌声と獣のような息づかいが部屋中に満ちていた。絶頂に向けて駆け上がる二人は、宇宙の中にただ二人でいるような、幸福感に包まれていた。 <おしまい> |