lache einmal mehr(3)



「家の跡を継げ。それがいやならギムナジウムを卒業して大学に行き、研究者になれ」
 まだ存命だった父親が、彼の進路について酒混じりの声色で吐き捨てた言葉。
 士官学校へ行って軍人になりたいという彼の希望を言葉にして以降、父親の息のかかった大人たちは、異口同音にその希望を挫こうとした。
 幸い、父親がアルコール中毒でぽっくりと死んでしまったから、彼はここ士官学校に入学することができたのだが、今のビッテンフェルトのおそらく他意のない言葉に、思わず思い出してしまった。希望も抱くことが許されなかった少年時代を。
 
 談話室を出て自室に戻ろうとしているロイエンタールの目は心の奥に向けられていて、外界を映していなかった。なので、通路をふさ ぐように立っていた人物に気づくのが遅くなった。ぶつかる手前ではっと気づき、見上げたときには、手首を捕まれ、普段は使っていない来客用の宿泊室に押し込まれてしまった。
 捕まれた腕を背後でねじ上げられ、もう片方の手で襟首を捕らえられ、そのまま壁に押しつけられた。
 そのわずかな間に、狼藉を働いている相手が扉の鍵をかけたことで、ロイエンタールは自分がどのような状況に置かれているのか、不本意なから思い知った。
 首に後ろから食い込む指が痛く、無意識のうちにあいている手をその指をほどこうとしたが、抵抗することに反応してか、指はますます食い込んでくる。
「ロイエンタール、俺がわかるか?」
耳朶を舐めるようにして、かすれた声で聞いてくる。
「・・ ・ゲオルギー・・・先輩」
「ほお、知ってくれていたのか」
 言いながら、体を密着させてきた。腰に彼の堅くなった物が押しつけられる。
 白兵戦術の競技会で2年連続優勝をしている4年生のゲオルギーを知らない者など、この士官学校にはいない。それだけではない。ゲオルギーは男色家としても有名で、強姦まがいの行為で今までに何人もの下級生と関係したとかいう噂も流れていた。
「・・・っ!」
耳朶を舐めていたゲオルギーの舌が、耳の穴に入ってきた。その後の行為を思わせるような舌の動きから、ロイエンタールは首を捻って逃れようとするが、ますます腕と首とを強く拘束され、身動きがとれない。
「フフフッ、初めてじゃないんだろう・・・」
 ゲオルギーは己の股間をぐ りぐりとロイエンタールに押しつけながら、獲物をなぶるかのように耳やうなじに舌をはわせ続けた。



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