お題 | ナノ


▼ 日榎



「うあああああ!!!無理だ!もう嫌だあああ!」
「な、何びっくりした」

正直ここまでとは、と椅子に凭れ項垂れた。全寮制で男所帯だということは分かっていてこの仕事をしているがここまで欲求不満になるのか。しかも連日仕事が続き過ぎて抜く暇も無い。帰ってきたらすぐ寝てるし残業続きだ。
思わず心の叫びを口から漏らしてしまう。案の定隣にいた榎本が驚く。その顔があまりにも虫か何かを見るような目だったので悲しくなってくる。

「なんだよエノーそんな目すんなよぉ」
「急に叫ぶのやめてくれる?変な目で見られるからさ」
「ごめん。つーかさ、エノ今日なんか変じゃね?調子悪いのか?」
「あーわかる?熱出てるんだよね。37℃だけどさ」

なんか朝からいつもより動きが鈍いな、と思っていたらそういうことか。少し心配になって額に手を当てるとあー気持ちいいーと目を細めながらオッサンのように言うので吹き出してしまった。確かに額が熱い。

「日高の手冷たいね」
「俺体温高い方なんだけど。大丈夫なのかよ?」
「大丈夫大丈夫。これくらいで休んで仕事溜めたくないからさ。一応薬飲んで楽になってるし」
「そっか…キツくなったら言えよ」

日高は優しいところと馬鹿みたいに元気なところだけが取り柄だよねー、と言いながら仕事に戻るエノ。お前そこは礼言うところだろ、と言ったがスルーされた。




定時になり業務終了の知らせの音が鳴る。俺は便所で用を足している途中で、もうこんな時間だったのか。便所を出てとりあえず特務室に戻る。すると机に突っ伏してる榎本を発見。まさか寝てるのか。珍しい

「おーい、エノ?大丈夫かー?」
「んぁ、あ、日高」

ぶり返してきたのか熱に苛まれてるようで、少し息遣いが荒くなっている。一気に心配になってきて、朝のときのように額に手を当てると、比べ物にならないくらい、熱い。

「あっつ…!馬鹿!お前悪化してんじゃねーか!」
「はぁ、ん、大丈夫、だ」
「大丈夫なわけないだろ!ほら、肩かすから、」
「やだ、仕事まだ残って」
「駄々こねてる場合か!」

無理矢理腕を肩に回して立ち上がらせる。とりあえず荷物取ってタイムカード切ってこいつ部屋に連れてかないと。
この高熱で仕事するとか言いかねない。

頭痛がする思いで腰を支えながら体を抱え上げると、やはり辛いのか足が覚束無い様子で、日高、ゴメンと呟いた。
謝るくらいなら無理すんなつーの。




「つーか布施は?」
「なんか仕事に駆り出されてるよ、だから朝からいなくて」
「マジかよ…」

部屋に入ると同室のはずの布施がおらず、静まり返っていた。とりあえず榎本をベッドに寝かせて、氷枕あるか、と聞いた。すると熱っぽい声でやめろ、と小さい声で、でもはっきりと。

「なんで」
「日高にうつったら申し訳ないし、そこまでしなくても大丈夫だから。ありがとう」
「何言ってんの。友達の看病くらいさせろよ。お前が気に止む必要ないって!俺が好きにやってるだけだし」
「そういうことじゃないでしょ……」

起き上がろうとする榎本。案の定またベッドにどさりと寝転がりハァハァと息を荒げる。その姿がなんだかエロいなーなんて思っ……
ナイナイナイナイナイナイどうした日高暁疲れてるのか疲れてるのか?お前は風邪ひいた同僚に欲情するほど堕ちてしまったのか???
心中を悟られないようにあくまで自然に振る舞いながら榎本の肩を押す。起き上がんな、無理すんな、な?と言うと吐息混じりの声ででも、と返される。強情だ。

「いいから無理すんなって。お前は黙って今日は俺に甘えてればいーの!」
「日高…」

にこりと笑ってやると榎本は観念したような顔をしてうつっても知らないからな、と俺の額にデコピンして布団にもそもそと潜り込んだ。

「いってー。もっとそれ相応のお礼の仕方があるだろうが…デコピンって…」

とりあえず氷枕を冷蔵庫から探してタオルで包んで榎本の後頭部に挟む。さっきのオッサンみたいな声を出すと思ったら随分色っぽい声で「ぁー…きもちぃ日高……」とか言うもんだから俺のアレが少しアレになりそうになったから壁に頭をガンガンぶつけて阻止した。

体温計をボーっとしながら口を開けてくわえる榎本がエロいとか思ってない……!思ってない……!

「日高……?大丈夫……?」
「大丈夫ァ!!!!大丈夫ァ!!!!」
「ァって何……」



少しさっきよりはマシになったらしく、息が整ってきた姿に安心する。てかコイツヘアゴム取ってないじゃん。

「寝てて痛くないのそれ、」

頭の方を指さしながら問いかけるとああ、気付かなかった。とヘアゴムを外した。
サラサラで黒くて長い髪が広がる。エノの髪の毛は多くもなく少なくもなくて生まれつきの綺麗なストレートで俺は好きだ。男なのにコレってすごいと思う。俺は剛毛だからエノの髪質とは似ても似つかない。

「エノはさー、欲求不満にならないの」
「あー…俺そういうとこ淡白だからなあ。日高は体力馬鹿だから性欲も強そうだよね」
「そうなんだよなー俺ほんと溜まってて頭どうかしてるエノに欲情しそうになってんだもん」
「ははは、気持ち悪いね」
「だよなぁ」

バッサリといい切られ何故か少し落ち込む。でもこれが正しい反応だ。やっぱ俺はどこかおかしいんだ。
そろそろ榎本も顔色よくなってきたし、布施も帰ってくる頃だろう。俺そろそろお暇するわ!と立ち上がるとエノが俺の服の袖をぐいっと掴みそれを阻止した。

「うわっ、何どうしたの」
「今日布施帰ってこないんだ、」
「え、マジで?」
「うん。だからあと少しだけ、側にいてくれないかな」

ズギュンと胸から鳴ったような錯覚を起こした。え、何こいつこんな可愛かったっけ。甘えてらっしゃるのかな?

「お、おう!風邪だと心細いもんな!別にいいぜ!」
「悪い…さっきは突き返そうとしたくせに引き止めて…」
「いやいや別にいいって!榎本も甘えたいときだってあるよなー!」
「俺、風邪の時いつも眠れなくてさ。」

意外な一面を見た気がした。いつもしっかりしてて俺の方がいつも引っ張ってもらっているのに、榎本も少しくらい弱いところがあったのだなと母性のようなものが生まれた気がした。俺男だけど。なんか可愛いなこいつ。勢い良くエノの首に腕を回すと明らさまに嫌がられた。

「そっかそっかー!いやぁ、可愛いとこあるじゃんエノ!」
「ちょ、やめてよ臭い」
「臭い!?ウッソマジで!?」

ふと窓を見るともう真っ暗になっていた。帰るの面倒だし今日はこっちに泊まっていきたいなぁ。







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