短編 | ナノ


▼ 秋伏




あの飲み会のあと、伏見さんとの少しギスギスしていた距離は元通りになった。伏見さん自身はあの時の記憶が無いらしい。それでもあれは本心なのだろう。全く可愛い。


「なぁ秋山」
「うわああ!?は、い!」

一人で廊下を歩いていたはずなのにいつの間にか隣に伏見さんが現れ、驚いて変な声が出る。そんな俺の反応を特に気にした様子もなく、話を続けた。

「その手袋なんでいつも付けてんの?」

ギクリ、触れられたくない話題に思わず顔が強ばる。だがそこで悟られてはいけない。必死に平成を保ってにこりと笑った。

「生まれつきの皮膚の病気で付けてるんですよ。外気に触れると炎症を起こしやすくて。」
「手だけ?」
「ええ。」
「……ふーん」

手を取りベタベタと触られる。手袋を取られそうになって慌ててそれを阻止した。

「やめて下さい」
「なぁ、嘘なんだろ?皮膚の病気とか」
「っえ」
「なんか隠してるだろ」

なんで、バレてるのだろう。今まで親にだって誰にだって隠し通せてきたのに。鋭すぎる。

「隠してなんか、」
「俺には言えないか。そうだよな、探るようなことして悪かった」
「っいえ!」

踵を返す伏見さんを慌てて引き留める。もう覚悟するしかない。そう思った。
俺は今までのことを正直に全て伏見さんに話した。伏見さんの過去を除くようなことをしてしまったこと、何故か俺から伏見さんに触れると手袋をはめていても記憶が流れてくることも。
気持ち悪がられても仕方が無い。

しかし、全て話し終わったあとの伏見さんの顔は予想外で、普段と変わらない仏頂面だった。


「あ、あの、気味悪いとか、思わないんですか」
「…別に。吠舞羅にも似たようなストレインいたし…まあ少し驚いたけど。つーかお前は誰かに他人の過去をホイホイ言うような奴じゃないだろ」
「…!」

信じてくれているのか、この人は。
意外に考えが凝り固まってるわけではないのだな、と内心驚く。絶対俺の過去を除くなとか言われるのだとばかり思っていた。
それにしても、よかった、嫌われなくて。ホッとして少し顔が綻んでしまう。

「…辛かったんだろ。今まで誰にも話せなくて」
「……」
「誰にも言わねーから。これからなんかあったらまあ、聞くから」
「…なんでそんなに優しいんですか」
「別に。同情じゃねーの。」

素直じゃないこの人が可愛過ぎて仕方無い。思わず自分から伏見さんを抱きしめてしまう。

「うわ、ちょ、おま!大丈夫なのかよ、」

伏見さんに言われてそういえば、と気付くが、以前のように記憶が流れ出してくることはなかった。

「好きです、伏見さん、ずっとこうやって抱き締めていたい」
「別にいいけどここの廊下監視カメラあるからな」










終わり


そして補足。伏見の記憶が流れてくる時は自分の感情が落ち着いてないというかごちゃごちゃしているとき。仕事中と酒飲んでるときはごちゃごちゃしてて最後はごちゃごちゃというより頭の中が真っ白になってた。

サイコメトリーについては諸説あるらしいので人によって所々引っかかる点が多々あるかもしれませんがそこはご了承下さい。













おまけの弁財と加茂



「なあ加茂、あれ」
「見るな。見なかったことにするんだ」
「廊下だぞここ…というかあれで付き合ってないんだな」
「……時間の問題だろうな」






[ back to top ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -