時軸:もっと過去
設定:浦原と







「あっれー。つばきさんじゃないっすか!」


間の抜けた声に振り向こうとした瞬間、後ろから抱き付かれた。殴り付けてやろうと手を振りかざすが、男は怯むどころかぎゅうぎゅうと私を締め付け口を閉じようともしない。


「昼間の瀞霊廷にいるなんて珍しい!おやすみですか?しかしまぁ、明るい場所で見るつばきさんも新鮮で美しいっすね、いえいえ、月明かりに照らされる貴方も艶やかで艶やかでたまら、ぶへ」
「うざい!」


言いたいことは多々有ったが、結論としてはこの一言で事足りた。向かいの店にまで飛ばされた浦原が鼻をつまみながらよろよろと私の元にまで戻ってくる。ちなみに、私は鼻血の対処法をいまだによく知らない。後頭部を叩くのは正しいんだっけ?


「浦原。かがんで」
「はい?」


…嘘だったようだ。
しかし、仮にも隊長格の男がこんな死神でもない女子供に吹っ飛ばされていていいのだろうか。体裁と言うものはないのだろうか。まぁ、こいつのことだし。どうでも良いか。鼻から口から血を吐く男にじゃあなとだけ言い残し立ち去る。
私の知ったことではない。


「………」
「………」
「…………」
「……………」
「………何故付いてくる」
「へ?付いていきたいからだと思いますけど」
「お前、仕事は」
「大丈夫。うちの隊員はみんな優秀ですから」
「お前が隊長なのにな」
「世の中バランス良く出来てるんですね」
「言葉もないよ」
「あ、そうだ。良い甘味処があるんですよ。行きませんか?」
「…お前みたいなの連れて歩いたら私が暴力女か何かみたいに見えるだろう」
「事実じゃないっすか」
「もう一発か?」
「勘弁してください」


浦原が私の手を握り、進路変更をしようとしたので奴の顔を睨み付けてやればひどくだらしない笑顔が視界に現れた。たしかに日の下と月の下では何か違うものがあるな、なんて。仕方がないので手を握り返せば、喜助はさらに笑った。もしかしたら私の知る喜助とは別人格なのかもしれない。


「つばきさん」
「なーに」
「白玉餡蜜、お好きでしたよね」
「うん、まぁ」
「それはよかった」
「…お前は変な男だな」
「良く言われます」


思わず息を吐くようにして笑えば、喜助はデートみたいですねと嬉しそうに言った。






午後二時の御遊戯






20090902



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