Commemoration | ナノ


ミモザ(アルレイ)






着いたその場所は、別世界だった。

まだ未成年である上、こういう場所には決して入る機会がなかったので、BARの入口に立った時、ドアを開けるのに、数分以上かかったのを覚えている。

意を決して、レイアはBARに足を踏み入れた。
店内はスローテンポの曲が、流れていて、とてもゆったりとしていた雰囲気だった。

家の蛍光灯のように、極端に明るい訳でもなく、蝋燭の火がついたような、程よい明るさの光。
想像していたものとは、遥かに違った。

父ウォーロックが、いつも行っているような居酒屋とは、似ても似つかない、大人の世界だった。


物珍しそうに、きょろきょろと店内を見ながら、レイアは待ち合わせしている人を探していた。

カウンターを見ると、見慣れた横顔が、レイアを捕らえる。
マスターと楽しげに会話をしている、彼。



「アルヴィン君」



レイアは後ろに手を組みつつ、緊張している様子を見せながら、アルヴィンに近づいた。



「よ、お嬢さん。まあ座りな」



レイアが座りやすいように、椅子をくるっと回す。
お邪魔します、とレイアは椅子へ腰掛けた。
そわそわして、なんだか落ち着かない。

たくさんの酒瓶が並んでいる。
家以上にたくさんあった。



「マスター、こいつにさっき頼んだカクテル、作ってやって」

「おおおおお酒!?」

「呑んでみたいって言ってただろ」

「そりゃあ、まあ……」

「まあ、気にすんなよ、俺だって、おたくの年齢の頃には、酒呑んでたんだから」



ロックグラスを慣れた手つきで振り、アルヴィンはこくっと口にする。
正面で向き合うのも慣れないが、こうして隣に座る、というのも慣れない。

ちらっと隣を見ると、アルヴィンが肘をつき、自分の方を見ていた。
レイアが慌てて、ばっと正面を向く。

ちょうどタイミングが良く、マスターがレイアにカクテルを差し出した。
コリンズに注がれているカクテルは、とても綺麗な色をしていた。


「はい、じゃ、乾杯」


アルヴィンはグラスを持ち、レイアとグラスをコン、とぶつけた。

レイアは大人の世界だと興奮しつつも、目の前にあるカクテルを、こくっと口に含んだ。
食べ慣れたことのある、フルーツの酸味が、口の中いっぱいに広がっていく。


「おいしい……、これって、ナップル?」

「お、さすが。やっぱ女性は、最初呑むなら、フルーツのお酒がいいからな。お酒だって思えないだろ?」

「う、うん」

「けど、飲み過ぎは注意な。おたく、酒強そうだけど、酒ぐせ悪そうな気がする」

「う……、どうなんだろね、わかんないけど……」


そのカクテルがとても呑みやすく、レイアはこくこくとあっという間に飲み干してしまった。
そこまでアルコールを含んだカクテルではなかったから、酔いはしないだろう、とアルヴィンは思う。


「ちょっといい気持ちだね」

「マジか」

「うん」

「そうなった時がな、男と二人になってたり、合コンの時がやばいんだよ」



若干、頬を染めたレイアのヘッドドレスに、アルヴィンは手を伸ばした。

いい気分になっているものの、レイアの意識は正常だった。
何してるんだろう?というような顔をしながら、レイアはアルヴィンを直視する。


「うーん、確かに……お父さんやお客さんとか見てたら、わからなくもないかな」


レイアの実家の宿屋にも、省スペースながら、カウンター席がある。
そこでたまに、カップルなどが座っているのを見ると、酔っ払った女性が、男性に寄り掛かったりしているのを何度も目にしてきた。


「これが、絶対にやばい行為だ」



アルヴィンの右手が、レイアの太股に置かれている、左手に触れた。
レイアはアルヴィンを凝視したが、アルヴィンの視線は、マスターへと向けられていた。

カウンターからは絶対にバレないし、これが仮にテーブルの下だったとしても、きっと気づかれない。

そんなアルヴィンの指先は、いつしかレイアの指へと絡み、恋人繋ぎをしていた。

留守になっていたレイアの指先も、きゅっと握る。



「なあ、バーテンダーのお姉さん、おたく、とても綺麗だな」

「まあ、口がお上手ですね」



他の女性を綺麗だ、と言いながら、右手はレイアの左手を力強く握り締めている。

(……やばいよ)

不覚にも、きゅん、としてしまった。

こういう場じゃなくても、ひょっとしたら目にする光景かもしれないが、他の女性を綺麗だと言いながら、自分の手を握り締めるのは、ずるい。


バーテンダーとの会話が終わり、アルヴィンはレイアから手を離した。



「どう?やばくないか?」

「うん、やばい……。い、いつもこんなこと、してるの?」



胸の鼓動が鳴り止まず、レイアはどうにか話題を変えたかったものの、思わず、思っていたことを口にしてしまった。



「いいや、今が、初めてだ」

「………!」



これはまずい。
まさか自分が初めてだとは思わなかった。

レイアは思わず、アルヴィンが呑んでいたグラスを手に取り、ごくごくと一気に呑んでしまう。


「レイア!」


レイアは呑んだ後、さっきよりも、頭がぐらぐらしてきて、視界がぼんやりとし、はっきりと確認できなくなっていた。

アルヴィンが呑んでいたお酒は、先程レイアが呑んでいたものよりも、アルコール度数が違う。

レイアが頭を抱えていた。


アルヴィンがマスターから水を貰い、レイアへ渡そうとした。



「うー…………」

「大丈夫か?」


アルヴィンがレイアの手にグラスを持たせたその時、レイアが、アルヴィンの手を掴んだ。


「レイ………」


そして、アルヴィンの手袋を外し、現れたごつごつした大きな手の平を、自身の頬にくっつけた。


「手の平、おっきいねー」

アルヴィンの右手は、完全にレイアに捕まってしまった。
すりすりとレイアが自分の手の平をさすり、アルヴィンはカァッとなった。


「ねえ、アルヴィン君、抱き着いちゃってもいいー?」

「いや、いいけど、ここでは勘弁してくれないか……」

「なんでよー!あ、じゃあ、マスター、もう一杯……」

「レイア……」

「諦めなアルヴィン、とことん付き合って、二人で夜の闇に消えて、仲良くするんだな」



マスターの一言に、アルヴィンは、そりゃあ責任は取るさと言い残し、二人でとことんお酒を呑むことにした。

レイアがまさか、さっき以上に密着してくるとは思わずに。





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アルレイでお酒ネタ(匿名様)

祝コメありがとうございます(*^.^*)
今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。


2011.10.13


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