Do not be gentle(ミラジュ)
「大丈夫だよ、エリーゼ。僕は君の傍にいるからね」
エリーゼを連れ出したジュードに対し、ミラはずっと疑問に思っていた。
本当になんとかできるのだろうか。
彼女が落ち着く場所が見つかる保証など、ありはしないだろう。
ほとんど言葉を発することがない彼女に対し、正直言ってしまうと、最初はどう接したらいいのか、わからなかったものだ。
そんな雰囲気を無意識に出していてしまったのか、エリーゼはミラとほとんど会話をすることがなかった。
彼女はジュードと共にいた。
それがいつの間にか、当たり前になっていた。
エリーゼが皆と打ち解け始め、たくさんの笑顔を見せてくれるようになり、ミラともよく会話をするようになった。
なんてこんなに可愛いんだろう。
彼女が懐いてくれて、嬉しかった。
彼女と会話することができて、嬉しかった。
だが、それは同時に、ミラに新たな感情を発生させてしまった。
今まで、当たり前のように見てきたはずのジュードとエリーゼのやり取りに、モヤモヤとし始めたのだ。
ジュードは料理が得意であり、エリーゼはジュードが作る料理が大好きだった。
味見係というわけではないが、ジュードが料理を作っている最中に、エリーゼはいつも顔を出しては、一口、こっそり味見をしていた。
「どう?今日はシチューにしてみたんだけど」
「すっごく、美味しいです!さすがジュードですね!」
微笑みを絶やさないエリーゼを見て、ジュードも一緒に優しく微笑んだ。
「私も、これくらい上手にできるようになりたいです」
「エリーゼならなれるよ」
「はい、ジュードがそういうなら、きっとなれますよね」
エリーゼはお皿の準備をしてきますねとジュードに言い、その場から立ち去った。
(あれ…?)
ジュードの耳に、お腹の鳴る音が聞こえてきていた。
エリーゼは行ってしまったし、自分のお腹の音でもなくて。
ジュードは後ろを振り返った。
すると後ろには、腕を組みながら、仁王立ちをしているミラの姿があった。
いつから後ろにいたのだろう。ジュードは気づかなかったのだ。
「ミラ、お腹空いたの?」
ジュードは笑いながら、お腹の音がなって恥ずかしいのか、口を尖らせているミラへ問い掛ける。
「空いてなどいない」
「え、でも、今」
「いないと言ったらいない!」
彼女は強い口調で、ついジュードへと返してしまった。
ジュードが目を丸くしている。さすがに驚かせてしまっただろうか。
ミラはちらっとジュードの方を見る。
ジュードは小皿に、シチューをよそっていた。
そしてよそった後に、彼はシチューを掬い、ミラの口元へ運ぼうとした。
「食べない?」
「いらない」
「どうして怒ってるの?」
「怒ってるって…私がか?」
「うん、怒ってるよね」
私は怒っているのだろうか。そんなつもりなど、なかったのだが。
ただ、エリーゼとジュードが、微笑み合っているのを見て、それで、モヤモヤとしてしまって。
ミラは腕を組み替えた。
「ミラ」
ジュードはシチューをテーブルの上に置いた。
ジュードにはわかっていた。
ミラがどうして、そのような態度をするのかを。
それが彼に嬉しさを感じさせる。
「とにかく、怒ってなどはいない、君の勘違いだ」
ミラには答えは出なかった。
だが、ジュードがミラに近寄って、ミラの肩へと自らの頭を預けて、寄り添った。
まだ彼女より背は低い、だが、その位置は、今の彼にはちょうどいい場所だった。
「ジュード」
「本当、ミラって、天然だよね」
「それは褒め言葉なのか」
ミラがジュードの髪をくしゃくしゃに掻き分ける。
ジュードはそれも受け入れて、ミラの好きにさせようとし、寄り添うことを続けた。
「いつか君を、くしゃくしゃにしてしまうかもしれないぞ」
「いいよ。僕は誰のものでもないけど、僕の心は、君のものだから」
「エリーゼは」
「エリーゼは、大事な仲間だよ、ミラもそうでしょう?」
「……ああ、そうだ」
ジュードの髪をくしゃくしゃにするのを止め、ミラもジュードの肩に寄り掛かる。
ジュードからはシチューの香りが漂い、ミラはまたお腹を鳴らしてしまう。
「あははっ」
「……仕方がないだろう、お腹が空いたんだ」
「うん、そうだね」
(よかった、上手くいきましたね)
エリーゼが二人の様子を嬉しそうに眺めていた。
―――――――――――
ミラジュでエリーゼと仲良くするジュードを見て、拗ねるミラ(匿名様)
今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
2011.11.17
← t
op
→