Awareness(ジュミラ)
ミラ=マクスウェルは美しい。
背は高く、調った顔立ち、長い髪、大きな胸、細い腰、すらっとした長い脚。
モデルや女優並の体型だ。
イバルが選んだとされる、彼女が普段着ている服には、どうしても納得がいかない時がある。
臍出しの服、短いスカート。
目のやり場には、本当に困った。
スカートは、髪の毛で上手く隠れてはいるものの、丈が短い上に、ちょっとでもミラが前屈みになれば、下着が見えてしまう。
前からでも、屈めば、ミラの豊満な胸が揺れるのを、何度も目にしてきた。
仲間といる時は、なるべく近くにいないように心掛けてはいた。
アルヴィンには、何度も何度もからかわれ、当のミラ本人は、動きやすいからと気にする様子も見せない。
だが、アルヴィンがミラの隣を歩いていると、どうもムカムカした気持ちになって、押さえ込むのに苦労した。
アルヴィンは軽い。
ミラの格好に動揺すらしない。
今まで、そういう格好をしている人を、何度も見てきたから、恥ずかしさとかも、何も感じないのだろうか。
それとも、もう慣れてしまっているからだろうか。
自分が、ミラを意識しすぎているから、だろうか。
様々な理由を考えてはみたものの、それでも、結論が出ることはなかった。
やがてアルヴィンは、寄る所があるから、と途中で別れ、ジュードはミラと二人きりになった。
ジュードの決まったポジションは、ミラの右斜め下。
少し下がったその場所が、調度いい。
だが、その位置に、ミラが納得しているわけではなくて。
ミラは理由を聞こうと、足を止めた。その時、ジュードとぴったりと隣り合わせになる。
「ジュード」
「どうしたの、止まっちゃって」
ジュードはまた、一歩下がる。
その仕草を見て、ミラが何かを言おうとした時、目の前にいる行商人が、ミラに声をかけた。
「お嬢さん、綺麗だね」
「私のことか?」
「そうそう、君だよ」
ミラを呼び止めた行商人は、立ち上がり、ミラの体全体をしつこいほど、眺めた。
「何を、している」
「いや、お嬢さん、いい体つきしてるなと思ってね。その容姿、その服装、周りに声をかけられたりは、しないのか?」
「いいや、特には…。この服だって、動きやすいから着ているわけであるし、別に、いい体つきと言われても……」
ねえミラ、気付いてないの?
その男、間違いなく、ミラを口説こうとしているんだよ?
君は綺麗なんだから、いろんな人に声をかけられても、おかしくないんだよ。
本当は嫌だけど、アルヴィンなら、まだいい。ミラに手を出さないって、わかっているから。
でも、
でも………―――――
行商人が、ミラの肩に触れようとしているのを、ジュードは目撃し、ミラを自身の方へ、引き寄せた。
「ジュード?!」
「ミラに、触らないで」
「何を言っているんだ、ジュード、彼は……」
「ミラ、行こう」
ジュードはミラの手首を力強く握り締めた。
(痛…っ…………)
それは、ミラが目をしかめる程の強さ。
ジュードがこうまで、力強く握り締めてきたのは、初めてかもしれない。
そして初めて、ミラは、ジュードの背後を歩いていた。
ジュードが、いつもいる位置に。
ジュードの顔が、若干ながら、確認することができる。
ジュードが稀に後ろを見ている。ミラがどんな顔をしているのかが、気になったんだろう。
誰もいない、街の建物と建物の間にミラを連れ込み、ジュードは壁に手をついてミラを閉じ込めた。
「はぁ、はぁ………」
ジュードの呼吸が乱れていた。
何て事をしてしまったんだろうと、後悔していた。
あの人が、ミラの容姿を褒め、ミラに触れようとしているのを目にして、そこから、もう無我夢中になり、暴走し、手がつけることができなくなっていた。
ミラもミラだ。
やはり、ミラの美しい容姿に、その格好は、男をそそるんだ。
だから、頼むから、その事を自覚して。
「ジュード、何故、私と目を合わせない?あんなことをしておいて、説明も何もしないつもりか」
「…ってない……」
「?」
「ミラは……っ、何もわかってない!!」
堪えていた言葉が、ジュードから溢れ出した。
ミラはジュードが大声を上げた事に驚き、瞬きを繰り返す。
何故そんなに怒っているんだ、何がわかっていないんだ、それがわからずにジュードの言葉を待った。
「ミラは……綺麗なんだよ」
「そうなのか」
「そうだよ、綺麗なのに、その最低限だけを隠した服装で………」
「いや、これは、動きやすいからであってな……」
「わかってる、わかってるけどさ、もう少し、自分は見られてるっていうこと、自覚してよ!男はさ、ミラの事、一回は、そういう目で絶対…見ちゃうんだよ………」
ミラが真顔でジュードを見る。赤玉の瞳はジュードを離さなかった。
ジュードの言葉を受け入れ、それを解釈しようと試みた。
「だから、ジュードは、私からいつも離れて歩いていたのか」
「それは………」
「あとは、さっきも、私にあの男が触れてくるのを阻止しようと…してくれた、ということだな」
「えっと……そう…だよ」
いつも、ほぼ冷静なジュードが、ミラの事になると、取り乱す事が多々ある。
ミラと出会ってから、ミラによって、自分のペースが奪われてしまう。
けれどそれでも構わない、とジュードは思っていた。
だが、ミラは、自分がマクスウェルだということ以外にも、自分は人間の女性である、ということも、ジュードは理解してほしかった。
「ジュード、妬いたのか」
「べ、別に…………」
「じゃあ、私が、またさっきの奴の所に戻ってもいいのか?」
「や、ダメだよ、ダメ!」
「ふふっ」
ミラはおもむろに一歩を踏み出し、ジュードの腰に手を回してきた。
ジュードの片足が、ミラの足に挟まれる。そこから、ジュードは逃げる事ができなかった。
「ジュード、私は綺麗なのか」
「う、うん。ミラは…綺麗だよ」
「そうか、ありがとう。ジュードがそう言ってくれるなら、それは本当なんだな」
ジュードは今の自分の体勢が恥ずかしくて、また、ミラからも追い打ちの言葉がかかり、ここから逃げ出したくなった。
だが、ミラに捕らえられてしまった以上、ジュードはもう逃げる事はできない。
「そろそろ、私のこの格好にも見慣れてくれないか」
「…努力、するよ」
「ジュードが見てくれないと、私が綺麗でいる意味がなくなるだろう」
「ミラ……」
ジュードはミラに寄り掛かり、ミラの鎖骨に頭を埋める。
今のミラの言葉に、彼は完全にやられてしまった。
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ジュミラで容姿に無自覚なミラに近づく誰かに嫉妬するジュードの話(匿名様)
コメントありがとうございます。恐れ多いですが、こうして1万打を迎えられたこと、同士様がいらっしゃること、本当に嬉しく思います。感謝です。
今回はリクエストありがとうございました!拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
2011.10.26
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