Commemoration | ナノ


片恋とマキアートの行方(アルレイ)






「なんか、すっげえ、ムカつく」



我慢に我慢を重ねていたアルヴィンだったのだが、とうとう、この言葉が、口の中から咳を切ったかのように、溢れ出ていた。





ボルテア森道から、植物変異か何かが原因で毒ガスが発生し、近くのル・ロンドのマティス治療院には、大量の患者が運び込まれていた。
ちょうど帰省していたジュードは、手の足りない治療院の手伝いに駆り出される。

そしてレイアも、私も何か手伝わせて下さいと、ジュードと共に、一時離脱した。

もしかしたら、ル・ロンドの街中にも、毒ガスが入り込んでいる可能性もある。
だから、みんなは、しばらくここから動かないで待っていて、とジュードから指示を受けた。


「特にアルヴィン君、勝手な動き、しないようにね!」


レイアからアルヴィンは、耳が蛸になりたいくらいに言われていた。

最後の方は、手で耳を塞いで、聞くことさえ、拒否してしまったくらいに。


見兼ねたレイアはアルヴィンの頬をつねった。


「アルヴィン!!ジュードを困らせないであげてよ!わかった?」


(……ジュードを、ね)


つねられた頬よりも、またジュードかよ、と、彼は少しムッとし、そちらの方が気に入らない。

アルヴィンは、大人しくいうことを聞く性格ではない為、あれ程レイアに言われたのにも関わらず、上手いことを言って、外に飛び出した。


確かにル・ロンドの街中には、人が誰もいなかった。
指示を受けて、住民は皆、建物の中へ避難しているのだろう。

そこまで大袈裟にする必要はあるのかと、あまりの用心深さが、阿呆らしく感じる。


どうせなら、あいつらの仕事ぶりでも見に行ってやるかと思い、アルヴィンはその足をマティス治療院へと進めていった。

室内に入れば、また、ジュードやレイアに、こっぴどく怒られてしまうだろう。
それはさすがに避けたくて、裏側の窓から、こっそりと中を覗いてみることにした。


確かに中には、患者がたくさんいた。
これでは、人の手が追いつかなくなるのも無理はない。

医師の卵と看護士見習いが、ちゃんと手伝いができるのかと、アルヴィンは信じきれない気持ちでいっぱいだった。


その気持ちを、二人はしっかりと裏切ってくれた。


ジュードはレイアとコンビを組み、ジュードが出した指示を、レイアがしっかりと聞き入れ、すざましい連携を見せていた。

さすがは幼なじみ、といったところか。


たまに二人は、顔を見合わせては、にこっと微笑みあっていた。
言葉はなくても、わかりあっている、一心同体の雰囲気を醸し出していた。


レイアが、ジュードを信頼している、というのが、とてつもなく伝わってきた。

それなのに自分は、レイアに信用されてないからか、何度も怒られる上に、今もこうして言われた事も守らずに抜け出して、ここにこうしている。


これ以上、ここにいては、自分をもっと、嫌いになりそうだった。
二人が醸し出す独特の雰囲気も目にしたくなくて、アルヴィンは、ミラ達の元へと帰っていった。


夕方すぎ、治療院が落ち着いた為、ジュードとレイアが、皆の元へと戻ってきた。

まずレイアが、宿の入口に足を踏み入れ、カウンターにいたミラ達に、ただいまと駆け寄る。

そして次はジュードが、入口から入ってこようとした時だった。


「わりい、足が滑っちまった」



入口付近に立っていたアルヴィンが足を延ばし、ジュードの足を引っ掛けて、ジュードが豪快に転んでしまった。

すぐさまレイアが、転んだジュードの元へと駆け付けた。


「ジュード、大丈夫?もう、アルヴィン君!!何やってるの!」

「はいはい、俺が悪うございました」

「何それ、そんな言い方……!!」

「うるせーんだよ!!いいからおたくは、ジュードの手当でも、ゆーっくりとすればいいだろうが!」



レイアへとアルヴィンは怒鳴り付ける。
レイアは目を丸くして、アルヴィンを見ていた。
明らかに自分が、ここにいていい空気じゃないことを確信したアルヴィンは、外へと飛び出していった。



「レイア」



ジュードは起き上がり、レイアの肩を叩く。
ジュードと目を合わせ、レイアはこくんと頷き、入口を飛び出して走り出した。



「アルヴィンくーん、わかりやすいねえー」



ふよふよと浮かびながら、ティポがジュードの元に来て、笑いながらそう言った。
そうだね、とジュードは、先程転んで擦れた鼻を抑えて、笑った。













レイアはアルヴィンを追いかけた。
彼の茶色いコートが小さくなっていくのを、一生懸命追いかける。

アルヴィンが向かった方向が、港でよかった。
逆であれば、絶対に見つけることはできなかったかもしれない。


「待って!待ちなさいよー!!」


これでもかというくらい、レイアは大きな声を出す。
ここまで出したなら、絶対に聞こえるはずなのに、どうして止まってくれないの。
お願いだから、もう止まってとレイアは願った。

願いが通じたのか、港の錆びれた宿付近で、アルヴィンが足を止めた。




「はあ、はあ、はあ…………」




全力疾走した為に、二人の呼吸は半端がないほどに、荒れた。

アルヴィンはレイアが後ろにいることがわかっていても、決してレイアの方を振り向こうとはしなかった。



「アルヴィン君」

「……ジュードに謝れって言うんだろ、わかってるよ」



いつだって、彼女は、ジュードが1番だ。
そんなことはわかっていた。
今までも、これからだってそうだろう。
例え自分と、こういう関係だったとしていても。



「そう、だけど、あのね………」

「あー、わかってるよ、どうせ俺は、あいつとは違って、大人げねえよ!おたくはいつも、ジュードばっか庇いやがるし、言葉がなくても通じ合ってる、みたいな空気出しまくってるし、俺は、すっげえムカつく!!」





なんてことだ。
レイアに、子供だ、鬱陶しいと思われたに違いない。
アルヴィンは、ここからいなくなりたいと思った。ジュードに嫉妬しているのがバレバレだ。






「バカ」





レイアはぽつりと囁く。
頭の血が昇っていたアルヴィンは、その言葉にも敏感に反応し、ようやくレイアの方を向いた。



「うるせえな、どうせバカだ…………」

「そうだよ、アルヴィン君の、バカ」



レイアは走り、彼へと思い切りジャンプしていく。
レイアの行動に驚きを隠せなかったものの、彼はジャンプしてきたレイアを受け止めて、しっかりと抱えた。

抱えられたレイアは、アルヴィンを見下ろし、アルヴィンの両頬を掴む。
怒っていた表情が、いつもの穏やかな表情へと変わっていく。


この人本当にバカだなあとレイアは思ったが、同時に、愛しさも込み上げて、額にそっとキスをした。



「レイア」

「だから、ほっとけないんだよ」

「な…」

「何度も言わせないで。ほっとけないの。わたしが傍にいなきゃ、寂しがりやで泣き虫のアルヴィン君、困るでしょ」



完全に子供扱いされていると思わざるを得なかった。

これは喜ぶべきなのか、否なのか。
頭の血の気が、ようやく引いていく。
ああ、なんて馬鹿らしいことをしてしまったのかと、苦笑いをするしかなかった。




「ごめんね」




レイアがそう言うと、





「でもね、ちゃんと、1番に、アルヴィン君がダイスキなんだよ」





と言い、微笑んだ。





―――――――
アルレイでアルヴィン嫉妬話(匿名様)

タイトル・涙星マーメイドライオン


更新を楽しみにして下さって、ありがとうございます(*^.^*)とても励みになります。
アルレイ長編ですね!これからどうなっていくのか、見守っていただけると嬉しいです。これからも頑張っていこうと思っています。

今回はリクエストありがとうございました!拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。



2011.10.19


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