甘えていいんだよ(アルレイ)
気付いた時は、体が鉛のように重かった。
部屋の中は漆黒の闇に包まれていた。
アルヴィンの家にはカーテンが付けられていない。
窓からも光が入り込んでこないということは、今は夜なんだと、ぼんやりとして、動かすのがやっとな思考が、そう判断する。
広いベッドのど真ん中で、アルヴィンは大の字になって、横になっていた。
体が熱い。だが、たまに寒気を感じる。
呼吸も乱れている。動くのが怠い。面倒臭い。
その時始めて、自分は風邪を引いているんだと思った。
だっせーな、とアルヴィンは眉を細める。
やるべき事がたくさんある、横になっている場合ではないのに。
かといえ、ここからまったく動けない。
アルヴィン自身が、動こうとしていないからか。
ドンドンドン…――――
部屋のドアを叩く音が聞こえてくる。
今まさに、意識を失って、眠ってしまおうと思っていた時に、この横暴な行為を行うのは誰だ、とアルヴィンは若干ながら、苛々してしまった。
しばらくしたら、諦めるだろうと思っていたが、一行に修まる気配を感じられない。
寧ろ段々と酷くなっている。
「あー……くそ、誰だ………」
よろめき、そして何度も壁にぶつかりながら、入口へと進み、ガチャっとドアを開ける。
ドアの隙間から、ひょこっ、レイアが顔を出した。
(なんでよりによって、こんな時に………)
アルヴィンはレイアにいつもの調子でいこうと思い、なんとか喋ろうとする。
「よお……、どうした……?」
そう言うと、レイアはアルヴィンのおでこに左手を当て、キッとアルヴィンを睨みつけた。
「なんだよ、怖い顔して………」
「すっごい熱。手紙出してさ、いつもならすぐにシルフモドキがくるのに、飛んでこないし、ユルゲンスさんにも聞いてみたら、最近体調が良くないみたいだとか言ってるし、もしかしたらと思って来てみたら……案の定じゃん」
元看護士見習いをナメるなよ、と最後にレイアは言った。
レイアが来てくれたのは、とても有り難いことだが、風邪を移してしまっては、シャレにならない。
「わりいな……、でも、大丈夫だから、今日は…帰れ」
お願いだから、おたくを大事にさせてくれと、アルヴィンはドアを閉めようとしたが、レイアの足がドアの隙間を挟み、それを許さなかった。
「レイア」
「わたしなら大丈夫だよ、丈夫だもん。ケガ以外で体調崩したことなんて、滅多にないんだから」
「おま……」
ぐらっと視界が更に歪んだ。
目が回っているのだろうか、正常な意識を保つことができない。
ごまかそうと思ったのだが、重力には逆らえず、アルヴィンはレイアへ体を預けるように、倒れ込んでしまった。
「アルヴィン……うわ、重っ……ちょっと、しっかりして!」
レイアの訴えも、もう、アルヴィンの耳には届かなかった。
こんなにゆっくりと眠りについたのは、いつぶりだろう。
飽きるくらいに、目を閉じていた。
そしてすべてを忘れてしまいそうだった。
次に彼が目を開けた時は、窓から強力な光が差し込んできた時だった。
「ん………眩し……」
太陽の光で目が眩む。
自分は、今までどうしていたんだろう。
そっと上半身を起こす。
その弾みで、額からタオルが滑り落ちた。
「タオル……?なんで……」
そして左手に、何か感触を感じ、そっと手を動かした。
レイアが、手を握り締めたまま、眠りについていた。
何で、こいつがここにいるんだと、最初は疑問に思ったのだが、よくよく考えれば、昨晩、レイアが、自分を心配して、ここに来てくれたんだということを思い出した。
ずっと傍にいてくれていたんだ。
照れもあったが、何故だか、暖かさも感じていた。春の日だまりみたいに。
「んー………」
同時にレイアも目を覚まし、体を起こした。
「おはよ」
「オハヨー……あれ、わたし、寝ちゃってたんだ」
レイアは慌てた。
そして手を握っていたこともばれてしまい、急いで手を離した。
(わたしが、熱出ちゃうじゃん)
気を取り直し、レイアはアルヴィンの両頬に手を充てると、彼の額に額を重ねた。
アルヴィンは何かを言いたそうにしていたが、堪えた。
熱を計ってくれているんだろうということはわかったのだが、こういうのは、やはり慣れない。
「うーん、まだちょっとあるね、もう少し横になってた方がいいかも」
「大丈夫だって、昨日よりかは大分楽になったし」
「ダーメ。ユルゲンスさんにも昨日お願いしてきたから、今日は休んでて大丈夫だよ」
「……わーったよ、降参だ」
まさかここまでされているとは思わず、仕方がないとアルヴィンは諦めて降参した。
「わかればよろしい」
レイアがそう言うと、一度キッチンに向かい、お湯でタオルを絞った。
そして戻り、アルヴィンの上半身の服を脱がせ始める。
「何してんの。もしかして、襲われちゃう感じ?」
むっとしたレイアは、タオルでアルヴィンの頭を叩いた。
「違うってば。汗かいたでしょ?着替えないと。あと、体も拭かないとね。冷えたらまた悪化しちゃうから」
「いや、それくらい、自分でやる……」
「いいから、大人しくしてなさい」
レイアの気迫に負けたアルヴィンは、体を、レイアに預けた。
上半身裸になったアルヴィンに、レイアが蒸しタオルで体を拭いていく。
それが以外にも気持ちが良かった。
彼女を抱きしめたい、レイアが近づく度に体が疼いたが、絶対怒鳴られるとわかっていたから、やめた。
「よし、終わり。あとはご飯かな、おかゆ作ってくるね」
彼の服を着替えさせて、ベッドに寝かせて、レイアは再びキッチンへと消えていった。
調理の音を聞きながら、アルヴィンは幼い頃の事を思い出した。
自分が体調を崩した時、母親がこうして、面倒をみてくれたっけ、と。
懐かしさを感じた。
けど、今ここにいるのは、母親ではないし、その代わりでもない。
数分たって、レイアが作ったおかゆを持ってきた。
レイアによれば、おかゆも作り慣れているということらしい。
「よし、じゃあ、あーん」
「はい?」
「はい?じゃないよ、食べさせてあげるから」
レンゲ一杯におかゆを掬ったレイアは、アルヴィンの口元にそれを近づけていく。
さすがに、これは恥ずかしすぎるだろ……とアルヴィンは、ちらっとレイアを見た。
「いいじゃん、たまには。こういうこと、しちゃってもさ。ね?」
そうか、とアルヴィンは相槌をうつと、口を開け、おかゆを口に含んだ。
梅干しの酸っぱさが効いている。
これは懐かしい味だった。
「食べれそう?」
「あ、ああ。美味いな」
「よかった、おかゆと言ったら、梅だよね。風邪にはいいらしいから」
そしてしばらく、そのやりとりは続く。
おかゆを食べ、薬も飲み、レイアが片付けにいこうとした時、アルヴィンがレイアの手首を掴んだ。
振り向いたと同時に、そっと重なる唇。
「治療費。」
そう言ったアルヴィンに、また熱が上がっても知らないからね!とレイアは駆け足でキッチンへと走っていった。
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アルレイで風邪を引いたアルヴィンを看病するレイア(匿名様)
祝コメありがとうございます(*^.^*)
そうですね、これからもマイペースですが、頑張っていきたいと思います!
今回はリクエストありがとうございました!
拙い文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
2011.10.14
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