さあ、と雨の落ちる音がした。
いきなり降り出したそれは止むことを知らないように降り続けていて、当分は足止めを食らいそうなのだけれど、たまには雨にでも濡れようか、なんて馬鹿な事を思う。
カーテンの様にさらさらと流れる雨はどこか耳に心地よく、自分の足音をかき消してくれる。
別段何も無いのだけれど、こうして雨に打たれていると、どこか安堵を覚える。
その何か、はどこか悲しげであり、切なくもあり、自身を支えているものだった。

雨に打たれる感触が徐々に強まる。

今ここに居るのだと知ら示すような水滴が、音を変えて身体に流れる、それがたまらなく心地良い。

目を伏せて、靴と靴下に構わずに、足を一歩踏み出してみる。
ぱしゃん、と散った生まれたての水溜まりに懐かしさを覚えて、幼い時にそうしたように
少しずつ、つま先から、その中へと入れていく。
もうすでに靴の中は雨でぐしゃぐしゃになっていたから、今更濡れようが、あまり気にすることは無かった。

雲の切れ目が向こう側に見えてくる。
少しの間だけ、もう少しだけ、やがてもう止んでしまうだろう雨を感じていたくて、目を瞑る。
瞼の上に落ちる雨粒が素敵に冷たくて、目尻から流れる水滴は、まるで涙の様だった。

弱まる雨足を残念に思いながら、そっと、目を開ける。
水に濡らされた世界は、すぐそこにある陽光を受けて美しく煌めいて、彼女たちの呼吸を感じさせてくれた。












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