状況が分からなかったのだろう。
二三度まばたきを繰り返して、眼前の元親を凝視する。
驚きと…次に来たのは恐らく…


「…っ…っ…―――!!」



女の金切り声なんざ至近距離で聞きたいはずもなく、咄嗟に今度はその大きな掌で口を覆う。


「落ち着け。
状況がわからねぇのはお前だけじゃねぇ。
…っつぅか、どっちかてぇと、話が聞きてぇのは俺らの方だ」


『解ったか?』と、不安気に揺れる女と目線を合わせ語り掛けると、先程より少し潤んだ瞳をしばたかせてから小さく首肯した。



「叫ばないでくれよ?」


言いおいて、宛てていた掌をそっと離す。



目を不安気に見開き、震えながら懸命に涙を堪え様としている女を見たその瞬間、元親の脳裏に浮かんだ感情は――――



『守ってやらねぇと』




(…!?
 な、なんだよ…っ!
なんで『守ってやらねぇと』なんだ?

うちの領民でもねぇもんを―――)







「あ…の…
此処は、どこですか?」



周囲を見回し、どうやら己の置かれた状況に気づき始めた様だ。
ハッとして、自身の服装にも気づき、顔を赤らめる。
掛けられていた上掛けを慌てて引き上げて、俯いてしまった。


その頼り無げな風情に胸が小さく鳴ったのは―――気の所為だと思いたい。



(思春期の、餓鬼じゃああるめぇしよ…)

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