1.




「うわぁ…」



今夜はいつもより冷える―――
そう思いながら、部屋の窓から外を見やれば

真っ暗な闇月夜――その漆黒のキャンバスから、船から零れた僅かな灯りを吸い込んで、ぼんやりと白い雪が光りながら落ちて来ていた。

ただ寒いだけならつまらないが、大好きな雪と来れば…
凍えぬ様にと、元親が与えてくれた厚手の羽織りを重ね、名は甲板へと急いだ。






ヒュオオ…――――





扉を開けた途端、雪と共に寒風が吹き荒ぶ。
一瞬だけ躊躇したものの、直ぐに羽織りの前を固く押さえながら名は屋外へと踏み出した。





「ひゃ…」




陸の吹雪だって今の服装ならばかなり堪えただろう。
しかも此処は海の上、周囲を遮る物は何もないのだ。
いくら自分が寒さに強いと言っても堪ったものではない。



(さ、むい〜!!)



それでも、真っ暗な空の下、天上から舞い降りてくる粉雪は名の好きなものの一つで…そのまま白い息を吐きながらぼんやりと夜空を見上げ続けた。










雪は…同じ―――




厳密に言えば水も空気も違うのだから、含まれる成分にしろ色々と異なるのだろう。
でも、美し過ぎて怖くなる程の夜空いっぱいの星や、大きく見え過ぎてやはり見慣れない―――自分だけが『異物』として元の世界へと送り返されそうに感じてしまい、時に恐ろしい月などとは違って…




(舞い降りて来る、頬を冷たく叩く雪の温度は―――)




変わらない。
元の世界にいた時同様、自分の身体からどんどん体温を奪い去ってゆく。





ヒュオッ―――





「!…っ」





ぼんやりとしたまま無意識に数歩歩み出してしまっていたらしい名は、突然強くなった海風に思わずよろめいてしまう。その時―――

グイと肩を抱き込まれて、覚束なかった足元が、ふわりと宙へ浮いた。




「ひゃ…っ!?」





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