那貴
飛信隊へいくと決めた時に、真っ先に思い浮かんだのは周のことだった。

雷土とやり合い痛む身体を引き摺りながら桓騎本陣を後にする中、那貴は視界の端に捉えていた周の姿を思い出していた。
桓騎の隣にいた周ははじめ驚愕の色を浮かべ、すぐに取り繕うように口を引き結んでいた。刺すような視線を感じたが、那貴は決して周を見ることはしなかった。見るわけにはいかなかった。

「本当になにも言わなくてよかったのか」

かけられた声に振り返ると、槍を支えに歩く昔からの仲間が気遣わしげにこちらを伺っていた。

「すげぇ睨んでたぜ」

そんなこと、知っている。
桓騎軍への気持ちが離れ、一家とよくよく話し合った上で出した結論を、この期に及んでやめるつもりも無い。桓騎がそれを引き止めないであろうことはわかっていた。
それが結果として周との別離に繋がることも、理解していた。
桓騎にとって妹分にあたる周が、桓騎の元を離れることがないということも、同時に理解していた。詳しい事情は知らないが、それを桓騎が、決して許さないであろうということも。

「話したところでなにも変わらないなら、話すだけ無駄だろ」

想像よりも冷たく聞こえた自身の声に、内心で驚く。聞いていた相手は一瞬眉を顰めるが、やがて、そうか、とだけ言って口を閉ざした。

本当は連れて行きたい。

今からでも引き返して手を取って、一緒に連れて行きたい。那貴が惹かれた飛信隊で、共に戦えたらどんなにいいか。武はないが長年桓騎と共に在る周の策力が飛信隊に加われば飛信隊の戦力増強にも繋がる。
存外頑固な周と、激しい論争を交わす河了貂が想像に容易い。羌カイとは案外気が合うと思うし、年も上で経験がある分、いい意味で信のストッパー的役割になってくれるだろう。
そんな他愛もない妄想をしている自分に気付き、那貴は自嘲気味に口角を上げる。

らしくないな。

どうせ傷付けるなら、恨まれるくらいが丁度いい。恨んで、恨み通せばいい。
目を合わせるわけにはいかなかった。目が合えば、感情を抑えられる自信がなかったからだ。だから頑なに周を視界に入れないように努めた。
どうせなにを言っても、周が共に来れる未来はやってこない。本人の意思がどうであれ、桓騎がそれを許さない。

俺を恨んで、生きてくれればそれでいい。
真っ当な幸せなど不釣り合いな人生なのだ、お互いに。
生きて生きて、生き抜いて、恨み続けてくれていれば、それでいい。

「いくぞ」

痛む身体を引き摺り、古巣を後にした。
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