シリウスが死ぬ時も肌身離さず大事に持っていたビンの中身の記憶は、そこで終わった。
彼女、“名前”さんの事はシリウスは一度も話さなかった。聞いたことのない名前だけど、ただ、その顔には見覚えがあった。スネイプの記憶を開心術で見た時だ。
優しげな顔立ちと、芯を持った瞳が印象的で、とても綺麗な人だとハリーは思った。
「ハリー…」
「あの時……。シリウスが言っていたのは彼女の事だったんだ。僕を守りたいって言ってくれた時、もう二度と目の前で大切な人を死なせたくないって言っていました」
「彼女は、とても頭が良く、そして何に対しても一途だった。友達は少なかったが、お前さんの母親とも仲が良かったんじゃよ。」
「母さんと……。この後、名前さんは…どうなったんですか?」
ダンブルドアは懐かしむように、目を細めてハリーを椅子に座るように促した。ゴホン、とひとつ咳をして話し始める。それはスネイプの放った稲妻が彼女の胸を貫いたところからであった。
「あの後、彼女は入院をした。あの痛ましい事件の日からシリウスは毎日通っていたが、4年間……目を覚まさなかったんじゃ」
「4年も?」
「医者はこう言っていたんじゃ。“確かに心臓を貫いていて危険な状態だったが、もう目を覚ましてもいい頃だ。目を覚まさないのは、彼女の意識だ”…と。そして4年という月日が経った頃、彼女は………」
「……」
「……自ら、命を経った」
「…!」
「シリウスが花の水を変えているたった5分の間に、彼女は命を経ってしまったのじゃよ」
「そんな…」
「それからのシリウスはひどく自分を責めたが、彼女の遺したこの記憶だけが、彼を救ってくれたようじゃな」
ハリーにはその言葉は理解出来なかった。
シリウスにとって、最後まで自分を愛していたまま死んでいったことが“救い”と言えるのか。
ただ、ハリーにはたったひとつだけ理解できた事があった。
「ふたりは、愛し合っていたんだ………」
そう言ったハリーを、ダンブルドアは優しい微笑みで見つめた。
おしまい。
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