とはいえ、あの後5日経っても久作が杭瀬村にやってくることはなく、雅之助としてはあのやり取りで久作とは仲良くなれたと思っていたので、
もし来れなかったとしても、ああ図書委員は忙しいのだな、で終わっていたはずだった。
それが。
「あ、あの…大木先生…?」
久作は、扉を開けたまま自分を凝視している忍術学園元教師の名前を呼んだ。
「あ…ああ、済まん。もう来ないんじゃないかと思っていたんでな」
雅之助は寝起きの頭を掻きながら謝る。久作は慌てて顔の前で手を振ると、
「大木先生が謝ることじゃないですよ。むしろ僕の方こそ遅れてすみません」
と、ぺこんと音が鳴りそうなほどのお辞儀をした。
気恥ずかしい空気が流れる。
そういえば前もこんなことが―あれは二人とも腰が折れそうになるような謝り合いだったが―あったな、と思いながら、雅之助は久作を自分の家に招き入れた。
「それで、僕は一体何をしたらいいんです?」
二人で朝食を食べ終わったあと、久作は雅之助の前に正座してそうたずねた。正直、何をして欲しいのか考えてなかった雅之助は黙って茶をすする。
「…もしかして、何も考えてないんですか?」
バレたか。
はぁ〜、と地を這うようなため息をついたあと「何のために僕は学校を…」とぶつぶつ呟く久作。
「そういえば、学校は大丈夫なんかの?」
自分から学園外でも貸し出しは可能か? と訊いておきながら、それは一週間も学園を留守にすることなのだと今さら気付く。
久作は眉をひそめ、板目に視線を落とすと、
「…大丈夫です。顧問の松千代先生は僕の担任でもありますし」
それに僕は優秀ない組ですからね! と顔を上げ胸を張る。
「そんなことより、何も考えてないんなら、とりあえず僕は大木先生の世話を焼きますよ」
すくっと立ち上がる久作。
「布団は干す! そのあと部屋の掃除! あ、そうだ。猪対策は終わったんですか?」
急にやる気を見せた久作に、雅之助はただただ頷くしかなかった。
らっきょう組合の話し合いがあると言って、昼過ぎに雅之助が家を出て一時間。
部屋の掃除はもう終わったし、猪対策は久作が来る前に終わっていたらしい。久作は秋に近付いている風を頬に受けながら、ラビちゃんを撫でていた。
「…夕飯の準備でもしようかな」
畑の手伝いもしたいが、雅之助が居ないときに畑をいじるのはまずいし、第一何をしたらいいか判らない。
一つため息をつき、ラビちゃんを兎小屋に戻す。
「すみませんが、こちらは大木雅之助さんのお宅ですか?」
家に戻ろうとした久作を呼び止めたのは、旅人風の男だった。
久作が用意してくれた夕飯を食べ、風呂を浴び、太陽の光が染み込んだ布団を敷く。
雅之助の家は男やもめの家とは思えないほど、暖かさに満ちた。
「一緒に寝るか?」
雅之助は部屋の隅で所在なさげに座っている久作に声をかける。
「あまりにも客が来ないから、来客用の布団はカビが生えてな。布団が一組しかないんじゃ」
雅之助はそう言って笑う。久作は少し逡巡したあと、こくりと頷き、
「お邪魔します…」
おずおずと布団に入った。
だんだんと夜が近付いている。
「久作…」
「…何ですか?」
耳元で聞こえる雅之助の声に、久作は仰向けになったまま答える。
「…今日、旅人から手紙を受け取っておったの」
久作が息を飲んだのが、暗闇の中でも雅之助にはわかった。
「……あれは、僕宛の手紙でした」
「…そうか」
こちらを見ずに答える久作を、雅之助は見つめる。
「…今日はありがとうな」
雅之助はそう言うと、そのまま目をつぶった。
――ドンドンドンッ!
ドンドンドンッ!
二日続けて扉を叩く音で目を覚ますとは。
まだ眠そうな久作を残して、雅之助はまだ機能していない頭を振りながら、戸を開けた。
「よう」
「…何じゃ、お前か」
敷居の向こうには、二年い組の実技担当で、雅之助の永遠のライバルでもある野村雄三が立っていた。
背後で久作が身を固くしたのが、空気でわかる。
「久作を迎えに来たんだ」
「思いの外早かったのう」
言いながら雅之助は大きな欠伸をする。
「手紙を送ったのと入れ違いに、手紙が届いたからな。これでも待った方だ」
野村はそう言って、雅之助の背後を覗き見る。
「っ! まさかお前!」
「な〜にを誤解しとるんじゃ。このムッツリメガネが。布団がないから一緒に寝てただけじゃ。何もしとらんて」
今にも掴みかかろうとする野村を、雅之助は半眼で制す。
「誰がムッツリだ! だいたいムッツリメガネってどういう意味だ!」
「ムッツリスケベなメガネ野郎の略に決まっとるだろうが」
「こんの〜〜っ!!」
「…大木先生は、気付いてたんですか? 僕が…学校を抜け出したこと」
振り絞るような久作の声に、喧嘩を始めようとした大人二人はピタリと止まった
。
野村は雅之助の胸ぐらを掴んでいた手をゆるめ、雅之助は首の裏を掻く。
「…まぁなぁ、わしはこれでも元教師じゃから」
先生の気持ちもよく判るし、子供の嘘も見抜けるんじゃよ。雅之助は答えながら、うつむく久作に近寄る。
「そして、お前さんの気持ちもよっく判る。わしが手伝いがほしいと言ったから、わざわざ学校を抜け出してまで来てくれたんじゃろ? ありがとうな」
優しく久作の頭を撫でる雅之助。
ぽつぽつと、久作の唇から言葉がこぼれる。
「…僕、貸し出しされたの、初めてなんです」
「うん」
「だから、嬉しくて…」
「うん」
「あの手紙、本当は先生宛だったんです」
「判っとる」
判っとるよ。久作。
雅之助の優しい声に、潤んでいた久作の目から涙が一筋流れた。
久作が泣き止み、帰り支度を整えた頃には、太陽は高く昇っていた。
「それじゃあ、またな、久作。今度は休みの日にでも来たらいい」
野村はもう来んでもいいがの。
目尻を少し赤くした久作は、雅之助の最後の嫌味にクスリと笑う。
「呼ばれても行かんわ」
野村はタラコ唇を尖らせ反論すると、久作とともに帰り道に向かった。
「またね。大木先生!」
大きく微笑みながら久作は雅之助に手を振る。
その姿に目を細めながら、雅之助も大きく手を振った。
・・了・・
後書きという名の謝罪。
…雅久というより雅←久未満?
なんかもうめっそりクオリティでごめんなさい(スライディング土下座)
キャラとか違うしね。野村先生がでてきたのはただの私の趣味だしね←(大野大
が好きなんです)
ちなみに10文=100円ではないです。調べたけどわからなかったので雰囲気です(
お前)
しかも結局、大木先生10文払ってないしね。羨ましい。←
こんなんでよかったら、煮るなり焼くなり揚げるなり、お好きにしてください。
以上、鉢屋三r…じゃなかった。アヒルがお送りしました!
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家鴨さんから頂きました。雅久小説です
お願いしたら頂けましたーーvv
もう、何から言っていいのやら…
まず、久作レンタルを本当にしたいです
どこで借りれますかね?某蔦谷さんですか??
すごく大人な大木先生とまだまだ子供だけど背伸びしてる久作が
すごく良いですっ!!たまりませんっ!!
雅久最高!!
あと、最後の野村先生の登場に持ってかれました!
やっぱ、この2人ですょねv(^^)2424
家鴨さん本当にありがとうございましたー!
今度雅久絵描きますね♪
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