「おいこら1組の学級委員長」
「なんだよ2組の学級委員長」

がらりと断りも無く教室の扉を開けたのは三郎だった。
尾浜は漫画から目を離さずに答える。

「何読んでるんだよ」
「左の字から借りた漫画」
「持ち込み禁止だろうが」
「先生にばれなきゃいいんだって」

お前よくそんなで1組やってられるよな、と三郎はため息をついて、尾浜の前の席に、背もたれを前にして座る。

「俺授業中に読んだりしないし」
「放課後、委員会があるのに出席せずに読んでる癖に」
「だって」

特に何も無いじゃないか。と尾浜は目を上げずに答える

「議題もない、予算会議もまだまだ、文化祭だってまだ」
「庄ちゃんと彦ちゃんが寂しがってるんだけど」
「まじで、じゃあいく」
「嘘です二人は先生にかりだされて俺たちなんかよりよっぽど忙しいです」
「なんだそれ」

じゃあ今お前しかいないの、と尾浜はようやく漫画を閉じた

「そう」
「じゃあ尚更行かない」
「お前さ」

職務くらいしろよ、と三郎がため息交じりに呟く

「なんでそんなに機嫌が悪いのかなー勘右衛門くーん」
「・・・」
「言わないと解らないなー」

俺昨日お前の大好きなパウンドケーキ持って着てやったろー、と鉢屋はため息をつく

「もしかして不味かったのか?」
「美味しかったよ」
「じゃあ何だ。形が悪かったか」
「食えば一緒だし、大体どこの店のケーキかと思うほどの出来だった」
「じゃあ何だよ」

なんでお前はそう言う訳の分からない臍の曲げ方をするの、と鉢屋は頭を抱えた

「別に」
「お前ホンット俺の事嫌いだろ」

俺はお前の事こーんなに好きなのに。わざわざケーキ焼いて貢ぐくらいにはお前の事が好きなのに、と三郎はわざとらしく呟く。

「俺がお前の事好きだろうと嫌いだろうと、関係ない」
「・・・お前眠いの?それ俺にすごく関係有るよね」

尾浜はため息をつく。

「俺がこんな風に拗ねても八つ当たりしても、少しも堪えてないくせに」

お前、雷蔵が俺と同じことしたら学校に来なくなるだろ、と尾浜はつまらなさそうに呟く

「雷蔵はそんなことしない」

三郎は顔を上げる

「雷蔵は素直でいい子なんだぞー。お前みたいにひねくれた拗ねかたはしない」
「はいはい俺は捻くれてて可愛くないですよー。その可愛くない俺に毎度毎度好きだっていう物好きが信じられませんねー」
「俺だって解らん」

解らないが、それでも俺はお前が好きなんだよなあ。と何処か諦めたように鉢屋は尾浜を見る。

「左の字と兵助は」
「好きだ」
「雷蔵は」
「愛してる」
「俺は」
「好きで愛してる」

尾浜は小さく笑う

「一緒じゃないか、どれも」
「全然違う」
「じゃあ」

どう違うのさ。と尾浜は三郎の目を見返した

「どう違うと言われても、違うものは違うんだ」

至極真面目にそう答える三郎に、尾浜はとうとう諦めたように笑った

「はいはい。まあ今回は俺の八つ当たりだから、俺が折れるよ」
「何だそれ」
「来週からは文化祭の決めごとが入ってくるんだろ。来週は行くから今日は見逃せって」

まあ、と三郎は不服そうに立ち上がる

「お前、なんだかんだちゃんとするときはちゃんとするから、別に心配してないけどな。今日来たのは暇つぶしだし」

そう考えるとどっちもどっちか、と三郎は小さく笑った。

「もう雷蔵たちも終わるだろ。靴箱で待ってるか」
「そうだなー」

尾浜も立ち上がり、鞄に漫画を押しこんでそのまま三郎の後ろを歩く。

「―――あのケーキさ」
「ん?」
「新作だろ。美味かったよ。甘ったるくて、ナッツたっぷりで、見た目以上にチョコぎっしりで」
「・・・なんか褒めてるように聞こえないんだが」
「美味かった」
「そうか」


ただちょっと調子に乗って食ったら、喉が焼けるように甘くなって、そのあとすごく胃にもたれた。と尾浜は呟く


「まるでお前みたいなケーキだった」
「・・・その俺みたいなケーキは、また食いたいのか?」
「さてね」



食いたいときは有るかも知れないね。と尾浜は答えて、振り返りもしない三郎に薄く笑いかける
振り返らずに三郎は、小さく喉を鳴らして笑った






都合のいい正解を求める

( "一番" に成りたいと思う事がこんなにみじめな事だとは知らなかった)





(食った後にまるでお前みたいなケーキだと思って)
(珍しく、雷蔵のついでとかじゃなくて、俺の為に作ったケーキだからって言われたのを思い出して)
(本当に)

「食えば食うほど腹にたまるよな、お前って」
「お前何時俺を喰ったんだよ」
「なんかさ」

いつか本当に、お前の甘さに毒されて、二番手でもいいやって思っちゃいそう。と尾浜は小さく笑って、

靴箱の前に座りこみ、舟をこぐ竹谷の頭を叩く為に三郎を追い抜かした。






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壱稀さんに、鉢尾が見たいです
ってツイッタでお願いしたら…頂いちゃいました^^
お願いしてみるもんです!!
壱稀さんの鉢尾の距離感が堪らなく好きです
このくっつくのかくっつかないのかな感じ
すごくいいです^^
実は鉢屋さん、尾浜さんが大好きな
とこも可愛いですよね!!

壱稀さん本当に
ありがとうございました。





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