どこの口がそんなことを言うのか。
そいつはにやりと口元に笑みを浮かべて、その笑顔を浮かべるときは決まって言うのだ。
「お前が好きだよ」
「はいはい」
尾浜はひらひらと手を振り廊下を歩く。そんな尾浜の周りをうろうろとまとわりついてくる三郎は直も言い募った
「私がこんなに愛を語っても、お前は顔色一つ変えないな」
これがハチや兵助ならもっと面白い反応があるのに。と三郎が呟く
「つまり左や兵助にも同じことも言ってるんだろ」
「馬鹿言え、それはただの戯れだ」
「じゃあ今俺に言ったことも戯れだろう」
ふうん、と三郎が黙り、足を止めた
「―――面白くないな、お前」
「面白く生きてる鉢屋とは違うんでね」
遠ざかる背中に三郎は小さく笑って、少し大きな声で続ける
「私が面白い?」
「面白いさ」
尾浜は足を止めて三郎を振り返った
「誰かれ構わず愛を語って、顔を変えて、悪戯して、楽しく生きてるじゃないか」
「その所為で本気で愛を語っても相手にされないのに?」
「お前が」
はん、と尾浜は笑った
「本気で愛を語るのは、雷蔵だけだろう?」
三郎は面食らったように瞬くと、やがてにやりと口元を緩ませた
「お前は意外にい組な頭をしているな」
「そりゃ、五年もい組をしてますから」
「頭が固い。いいか、俺にとって雷蔵は―――」
「身内」
尾浜は呟き、一歩三郎の方へ足を踏み出した。ぎしり、と廊下が鳴く
「身内なんだろ」
「・・・ああ」
「知ってる」
ぎしり、と床が軋む。三郎は影になって見えない尾浜の表情を読もうと、じっとその顔を見つめる。
「じゃあ―――」
「お前は頭が良いと思ってた」
尾浜の低い声が三郎の鼓膜を打つ。床が三度目、ぎしり、と鳴った。
世界はこんなに静かだったろうか。風の音も、下級生のはしゃいでいる声も、ぴたりと聞こえなくなっていることに不意に気付く。
「それとも良すぎて馬鹿なのか?」
「勘右衛門?」
「お前のその喉を」
音も無く延ばされた尾浜の手が、三郎の首をつかむ。
「今この場で裂くことができたら。―――俺はどんなに救われるだろうかと、お前が俺に馬鹿なことを言うたびに思うんだ」
「・・・だが、実行したことは無い」
力の込められる腕に、三郎は緩く自分の手を置く。息は苦しいが、呼吸出来ないほどではない、と三郎は再び口の端を吊りあげた。
そんな三郎を見て、尾浜も微笑む。
「ああ。そりゃあ、可哀想だろう?」
「誰が?」
「お前の死体を見るであろう下級生が。兵助が、左が、―――雷蔵が」
「・・・俺は可愛そうじゃないのか」
「馬鹿だなあ鉢屋」
俺はお前が大嫌いなんだ。だから、可哀想だなんて思うはずがないだろう。
「―――それなら」
「うん?」
「どうしてそんなに泣きそうな顔をする?」
一瞬尾浜の腕が緩む。その隙に三郎はぐいと尾浜の襟首をつかんで引き寄せた。
何を、と言いかけた尾浜の口を、自らの口でふさぐ
「!」
流石の反応だった。次の瞬間には押し返され、三郎はたたらを踏んで廊下に座りこむ。
急に入ってきた空気にせき込みながら、三郎は尾浜を見上げた。
「―――そんなに嫌がることないだろ」
「お前、なんかっ・・・」
ああ、と三郎は笑う。
顔を赤くして、しかし泣きそうな顔で、手の甲を自らの口に押し当てて、言葉も出ない。
そんなお前が大好きなのだよと口の中だけで呟くと、三郎は尾浜を見上げて、心底嬉しそうに笑い、口を開いた。
「やっと顔色が変わった」
君は駒鳥
(誰が彼を泣かせたの?―――私が、と狐が笑った。)
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なぎスケさまに捧げます・・・!
お題多謝:http://www.geocities.jp/monikarasu/
>>あとがきという名の蛇足<<
何とかして尾浜に「無関心」以上の反応を返してほしい鉢屋。
そのためならばいっそ命かけてもいい、勘に殺されてもいいとすら思う三郎。
どこのヤンデレですか。
私が書くヤンデレ可愛くない萌えない・・・!
ちなみにうちの鉢尾は 三郎→→→→→→(←)勘です。でも取り敢えず両思いなんだよ。
でもなんでこうなるかって、
三郎として「身内」の一番は雷蔵で
「恋人」としての一番は勘。
「友人」としての一番はたけくく。
あと勘ちゃんは独占欲強いんだねとふと思った。
「俺を好きだと云うなら俺だけ見てろ」的な。
俺そろそろここで設定呟くの辞めなきゃなあとか思ってる。
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大尊敬の文字書きさんである
壱稀さんから相互記念で頂きました!!
うあぁあ、もう、言葉にできません!!
あぁあありがとうございまぁぁあ(^///^)
壱稀さんの書かれる世界観が
大好きで!!胸がキュゥゥってなりますよね!!
あと、勘ちゃんが男前!!!格好いい!!
理想の鉢尾が、今ここに!って感じです!
本当にありがとうございました!!!