ありふれてる大切なこと(久々知×尾浜)
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「あー、……」
呼んだ名前は、綺麗に天井へ消えていった。
■ありふれてる大切なこと■
お前がいないと生きていけない。
…嘘、お前と豆腐がいないと生きていけない。
久々知は真顔で尾浜に迫る。
丁度予習を終え、寝間着に着替えている途中の彼は軽く笑って久々知を見た。
「おれって豆腐と同列?」
「うん」
「…はは、あんまり嬉しくないかも」
言葉を濁して寝間着を着終えた尾浜は苦笑を浮かべて肩を竦める。
最大限の賛辞を送った久々知はしかし尾浜の微妙な反応を見て、わからないと首を傾げた。
「不満?」
「…まぁね」
「勘右衛門は欲張りだ」
「違うだろ」
「豆腐と同じ位置なんだぞ?すごいことなんだぞ」
「はいはい」
食い下がる久々知に困った表情を見せ、尾浜は「おれもう寝るよ」と一方的に会話を打ち切る。
灯りを消され、行き場を失った久々知は頬を膨らませると強引に尾浜の布団へ入り込んで彼を後ろから抱き締めた。
「勘右衛門」
「おやすみ」
「ああ…って違う!」
「おれ眠い」
布団に入られるのは最早日常茶飯事で気にした様子も見せず尾浜はやんわりと距離をとりつつ目を瞑る。
実習で疲れきった体は睡眠を求めていて。
兵助には悪いことをしていると思いつつ、尾浜は本能に逆らえぬまま微睡んでいく。
「…もういい」
「ん、また明日」
「俺こんなに勘右衛門のこと好きなのに」
「ありがと」
「勘右衛門は全然わかってないじゃないか」
久々知は口を尖らせて目の前にある尾浜の耳に噛み付く。
かりっとした軟骨の感触は悪いものではなく、久々知は尾浜が構ってくれないことを逆手にそこを執拗に噛んだり舐めたりした。
「…へ、兵助……っ」
「何?」
「何じゃない、やめろよ」
「やめない。勘右衛門は寝てていいぞ」
「寝られるわけないだろ!」
ぴちゃぴちゃととうとう水音が上がる。
横向で寝ていた尾浜はいい加減にしろと言わんばかりに耳を塞ごうと手を伸ばせば、久々知がその手首を掴み自分の方へ引っ張る。
必然的に向かい合ったふたりは暗がりの中、瞳だけを爛々と輝かせてしばし沈黙した。
「勘右衛門もさ」
「え?」
「勘右衛門も、俺のこと好きになってよ」
切なげに久々知が呟く。
今までの理不尽な強引さとは打って変わったその態度に尾浜はたじろぎ、こくんと空気を嚥下した。
枕に挟まれている耳朶が熱を持って熱い。
けれどこれは多分、久々知に噛まれたからではないことを尾浜は自覚する。
「兵助が」
「お」
「兵助が豆腐よりおれの方が好きになったら」
「おぉ」
「考える」
「…なぁんだ」
けち、と付け加えて久々知は口を尖らせる。
けれども尾浜が暗がりでもはっきりわかるほど赤面していることに気がつくとその口元を笑みに変えて、額と額をくっつける。
「多分、もう好き」
眠気はどこかに吹き飛んでいったらしい尾浜は視線を彷徨わせて「馬鹿」とだけ答えた。
お借りしました
●青い恋をしている10題
配布元:確かに恋だったサマ
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舞人様から頂きました!
リク企画に勇気をだして…
リクしちゃいました
やって良かったっ!!こんなに素敵な
久々勘がいただけるなんて!!
豆腐or勘ちゃんは
久々知最大の分岐点だと思います
5い可愛すぎて禿げ萌えました
舞人様、本当にありがとうございました