さてどうしようか。
舌なめずりをした七松に、尾浜はごくりと空気を嚥下した。



■甘い刹那をもう一度■



人のことは言えないけれど、と前置きして七松は口を三日月のように開く。


「髪の手入れはきちんとした方がいいよ」


それから、三日月は半月となって七松は尾浜の髪を一房掴んで、ねぇ、と妙に鼻にかかった声を出した。
それから、塹壕掘りに使っていた苦無で持っていた髪をざくりと切ってしまう。
何の躊躇も遠慮も感じられないその行為に、尾浜は大きな瞳を更に大きくして七松を真正面から見上げた。
彼の後ろには、満月があって、ああなる程と尾浜はぼんやりと月明かりに消えていく髪の毛を追えば、七松は怪訝そうにそれでも笑みは絶やすことなく尾浜の耳元へ唇を寄せた。


「勘右衛門」

「はい」

「……怖い?」


七松の声色は精彩を欠いたもので、平素の彼らしくないそれに尾浜はしばらく答えを忘れてじっと七松を見つめていた。
かぷりと耳朶に犬歯を立てられ、ようやく尾浜は小さく首を左右に振り「大丈夫です」と掠れた声で彼の質問に答えたのだった。


「ごめんな」

「先輩」

「あはは、本当にごめん」


謝っているのは、切ってしまった髪の毛なのか、それとも恐怖を抱かせるような殺気を消せないことなのか、それとももっと別の理由なのか。
ともかく七松は苦しげにそう言って尾浜の背中をぎゅうと強く抱き締めた。
尾浜はそれに応えるように七松の背中へ同じように手を回して、控え目に彼の首筋へ歯を立てたのだった。


「っ、く…はっ…」

「うぁっ、あ、あ、…うぅ」


月が高く上がってくる頃になれば、七松はいよいよ自分の理性を保てなくなってきたのか、貪るように尾浜のことを突き上げていく。
いつの間にか制服はどこかに飛んでしまい、大木に背中を預けて尾浜は深く息を吐き出して、瞳いっぱいに涙を溜めて「七松先輩」と律動に負けた上擦った声で名前を呼んだ。


「どうした」

「は…っ、…う…せんぱ…ぃ…っ」

「そうか、良いか」

「ひぅ…あ、は、あ…あぅぅ…」


会話として成立しない尾浜の呻き声に、七松はふわりと笑みを見せる。
可愛いなぁ、と呟いたその言葉はいつもの七松のような気がして、尾浜は目尻から一筋の涙を溢れ出す。


「馬鹿、泣くな」


その涙を七松は笑って舌を伸ばし舐めとってやれば、尾浜はますます泣きじゃくっていき、とうとう七松は困ったように眉根を下げて「勘右衛門」と結合部をそのままに声をかける。


「ごめんなぁ」

「ちが…っ、ひぁ、せ…ななま…っ、せんぱい…」

「でも好きなんだ」

「ふぁっ、あぐ、う、うぁっ」

「…勘右衛門が好きなんだ」


地面に散らばっている髪の束に視線を向けて、七松は独り言のように言ってからもう一度、尾浜の方を真っ直ぐ向いてにこりと笑う。
その笑顔は儚さを灯していて、尾浜は泣きじゃくりながら七松の首に自分の両手を絡めては、彼と密着してそのまま胸元へ顔を埋める。


「お…れ、…っ、も」

「……」

「す…き、っ、なな…まつ、せんぱぃ…っが、好き…ぃ」

「う…っ、馬鹿…」


だから、謝らないで。
胸に頬を寄せる尾浜の頭に七松は自分の頬を当てる。
心の冷えて固まっていた所が一気に溶け出してくるような温かい感触を覚えながら七松は尾浜の中を抉るように腰を揺らし、白濁を放った。
尾浜は七松に合わせるように絶頂に達し、髪の毛を切られた腹いせとして彼の首筋へ暫くは消えそうにない跡を残したけれど、七松はそれを嬉しそうに指の腹で撫でて、「ありがとな」と尾浜の額へ唇を落としたのだった。





配布元:確かに恋だったサマ







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「もよもよ」の舞人様から頂きました。
舞人様のお陰でこへ勘に目覚めてしまい
常日頃からstkをしていたところ、
記念リク企画をしていたので、ドキドキしながら
こそりとリクしたところ、なんと!!
快く引き受けて頂きました!!
本当にありがとうございました!!!
もう こへ勘愛しすぎます…素敵!!






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