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「二ノ宮、俺はお前と結婚したいと思っている」

『・・・・・は?』

カタカタとキーボードを打つ音が響く夜の9時。
基本労働時間8時‐17時なのに、わたしは先輩から任された仕事が終わらず絶賛残業中だ。
同じフロアのななめ向かいのデスクで同じくキーボードを叩いていたチーフ、3歳年上の柳さんはパソコンの画面を見つめながらとんでもない爆弾を落としてきたのだ。





『からかうのはやめてくださいよ』

「俺は本気だ」

入社2年目のまだまだひよっこのわたしとこの課の出世頭でチーフに選ばれている柳さん。
こうやってふたりきりで残業するのも初めてのことだ。たぶん。
接点なんてほとんどなかったはず。





『お疲れですか?』

「二ノ宮が癒してくれるのなら歓迎しよう」

『うーん、熱でもあるんですかね・・』

こんな柳さんは見たことがない。
いやまあそこまで話したこともないんだけど。
クールで真面目で仕事の早い(これは完全なるわたしが抱くイメージだ)柳さんはどこいった。





『柳さんはブラックでしたよね』

ことん、と柳さんのマグカップをデスクに置く。
わたしも自分のマグカップを手に持ったまま柳さんのとなりに座る。




『どうしたんですか、急に』

「ずっと手に入れたいと思っていたんだ」

伏せていることが多い柳さんの目が優しくこちらを見つめる。
あまり見たことがないその目がすごく綺麗だと思った。
モテるんだろうなぁ・・・。





「二ノ宮はよく笑うな」

『へらへらしてます?』

「そうじゃない。いつも楽しそうに仕事をしているな」

『やりたくて就いた仕事ですから』

ひとつプロジェクトが始まればチーム一丸となって仕上げるのに、ひとりむすっとしてるよりは笑っていた方が空気も和む。
だからわたしは、どんなに忙しくてもひとりのとき以外は笑顔を絶やさないって決めている。





『わたし、柳さんのことまだあまり知らないんです』

「同じチームを組んだことはないからな」

『でも、きょうすごく知りたいと思ってしまいました。興味がわいてしまいました』

「それはよかった」

ふっ、と笑う柳さんにわたしもなぜか嬉しくなった。
その笑顔をもっと見たい、なんて思ったわたしはもう既にあなたの策に溺れていたんだ。




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