◎05
やってきました中間試験。
平たく言えば国語数学理科社会英語なのに高校生にもなるとなんでこんなに細分化されるのか、と右隣のまいちゃんはずっと怒っている。
今日はテスト3日前なので、範囲が終わっている教科は自習と言う名の試験勉強タイムだ。
『まいちゃんここ公式はあってるけど、計算ミスしてるよ』
「えっ、あ、ほんとだ」
『公式はちゃんと使えてるから、あとはケアレスミスさえしなければ大丈夫だね』
「ゆずの教え方すっごくわかりやすいよ!ありがとう!」
『どういたしまして』
昔からノートを綺麗にとるのはケーキをデコレーションするのと同じだと思ってる。
目をひくような色使い、だけど使いすぎてごちゃごちゃしたら意味がない。
ぜんぶをぎゅうぎゅうに詰め込まないで余白も大事。
そんなことを熱弁していたら、まいちゃんは今日の勉強はおしまいなんて言って寝るモードに入ってしまった。
「二ノ宮さん、俺もひとつ質問してもいい?」
『ど、どどど、どうぞ』
「俺たちもう3ヶ月も隣なんだからいい加減慣れてくれると嬉しいな?」
『ご、ごめんなさい・・・』
憧れの幸村くんを前にするとどうしても緊張してしまうのはもう条件反射っていうか自然の摂理っていうか、仕方のないものだと思うんだ。
これでも入学したばかりの頃よりは慣れて、だんだん会話もできるようになってきたのに。
ああ、60センチ程の距離にあのお美しいお顔が・・・。
「・・・って聞いてる?」
『ごめんなさい聞いてませんでした』
「ふふ、だと思った」
怒ってはいないらしい、にこにこと笑う幸村くんの両手がわたしの頬をむにっと摘まんだ。
『幸村くんいたいです』
「二ノ宮さんがちゃんと話を聞いてないから、おしおきしなきゃいけなくなっちゃったじゃないか」
『おしおき』
「っあはは、二ノ宮さんのほっぺたはやわらかいね」
『・・っ、』
ふにふにと親指と人差し指でほっぺたの感触を楽しみながら笑う幸村くんに心臓のどきどきが止まらない。
そりゃあ毎日あまったケーキ食べてますし?身長のわりに体重は・・まあスリムだとかスレンダーだとかモデル体型だとか!は言えないけど、まだでぶではないはず。
わたしは丸顔なんです頬にお肉がつきやすいんです!
『ダイエットしようかな』
「なに言ってるの」
『幸村くんにほっぺたをつままれないようにです』
「ふーん。じゃあダイエット禁止ね」
『えぇー、』
幸村くんってお美しいお顔とフォルムをしてらっしゃるのに、たまにとってもジャイアンだよね。
「えー、俺ってどう見てもできすぎくんでしょ?」
『たしかに頭のよさを考えると・・・って、まさか幸村くんもデータの使い手!?』
「二ノ宮さんぜんぶ顔と口からでてるからね」
わーお、心のなかでつぶやいてたはずなのに、ぜんぶ筒抜けだったなんて困った。
『と、ところでさっきの話はなんだったのでしょうか』
「俺も化学教えてほしいなって」
『化学基礎は暗記だからわたしが教えられるようなことないと思うんだけど・・』
「化学室のにおいが苦手でね、授業に集中できないんだ」
幸村くんが伏し目がちな表情をするととても儚げで、そういえば薬品のにおいは入院を思い出すからとかなんとか言ってたような気がする。
わたしはあのとき、名前しか知らなくてブン太のチームメイトだってことしかわからなかったけど、難病で入院してもうテニスが出来ないかもしれないなんてわたしには想像できないくらい辛かっただろうな。
『じゃあわたしのノートでよければお貸ししましょうか?』
はいどうぞ、と幸村くんにノートを渡す。
(先生がさらっと口で言ったことまでちゃんと書いてある。やっぱり頭はいいんだなぁ・・・。あ、ここ落書きしてある)
「二ノ宮さんも落書きとかするんだね」
女の子っててっきりうさぎとかねことか、かわいいものが好きなのかと思ってたけれどこのノートはかわいくデフォルメされたかえるばっかりだ。
「かえるが好きなの?」
『なんとなく、化学ってかえるのイメージがあって・・』
「っはは、二ノ宮さんってやっぱり変わってるね」
『恥ずかしい・・』
「今度俺のノートにも書いてもらおうかな」
『幸村くんのノートに落書きなんてとんでもない!!!』
「えー、いいじゃんかえるかわいいよ」
『・・・じゃあ、化学のノートなら』
「化学じゃないとだめなの?英語は?」
『英語はきりんだよ』
「っあはは」
結局授業終了のチャイムが鳴るまでこのやり取りは続いたのだ。
じゃあ数Tは?ぞうだよ?数Aは?かめだよ?あははっ、そこちゃんとわけるんだ!じゃあ古典は?ぱんだだだよ?
(ほんと、二ノ宮さんって飽きないなぁ・・・)
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