◎04
五感をうばってください事件(?)から早2ヶ月。
変なひとだって思われてると思ったわたしにもまいちゃん以外の友だちができた。うれしい。
「ねえねえ、ゆずちゃんとまいちゃんのグループは調理実習なにつくるの?」
声をかけてきたのはスレンダー美人な篠田もえちゃんと身長はわたしといい勝負な小松りかちゃん。
今日のランチタイムの話題はついさっきまで話し合っていた来週の調理実習のこと。
男女2人ずつの4人1グループで、テーマは"プレゼントに最適なお菓子"だ。
1学年の人数が多くクラス替えのたびにはじめましてが訪れる立海ではいちばん最初の調理実習では親睦を深めるために、と作ったお菓子でプレゼント交換をするのが恒例になっているのだ。
『わたしたちはカップケーキにしたよ。ラッピングもしやすしいからね』
「そういうりかちゃんたちは?」
「スティックチーズケーキ!」
「もえは無類のチーズ好きなんだよ」
じゃあ材料はなにが必要だとか、隠し味になにを入れるかなんて話が盛り上がる。
もえちゃんとりかちゃんのグループの男の子はお菓子はもっぱら食べる派らしく(ブン太みたいな食べるのも作るのも好きなのは珍しいのかな?)好き勝手にやれるらしくすごくやりやすいとかなんとか。
「でもびっくりしたよー、ゆずちゃんのグループに幸村君が入るなんて」
『いちばんびっくりしたのはわたしだよ?』
先生の4人グループを作ってください、の言葉にいちばん最初に反応したのは右隣のまいちゃん。
「一緒にやろ!」『うん!』なんて話していたら左隣から「赤川さん、二ノ宮さん、俺たちもいいかな?」なんて綺麗なアルトボイスが響いた。
『う、うん!もちろんだよ』
俺たち、というのは幸村くんと柳くん。
なんかすごいグループになってしまった。
「グループ決まったからあとなに作るかだねー。あたしカップケーキがいい!デコレーションするの!」
『デコレーションかぁ・・・じゃあ、クリームであじさいとかお花つくる?』
「え!そんなことできるの!やりたい!」
まいちゃんは見た目サバサバ系だけどかわいいものが大好きだって知って、そのギャップがまた男子には人気らしいとりかちゃんが言っていたのを思い出す。
「ふたりともそれでいい?」
「ああ、問題ない」
「二ノ宮さんがいればなに作っても心配ないしね」
『ふたりとも甘いものは平気なの?男の子でブンちゃんみたいなひとって珍しいでしょ?』
「そうだな。俺は洋菓子はあまり食べないな」
『じゃあお抹茶とかあずきとか、甘さ控えめで和風のも作ろうか』
「すまないな」
『ううん、柳くんとプレゼント交換できないのはいやだから』
柳ににこっと笑いかける。
それに柳も少しだけ表情をゆるめた。
*****
「レッツ!デコレーション!」
いちご・チョコレート・プレーン・抹茶の4種類の焼き上がったカップケーキが冷めるのを待つ間に、デコレーション用のクリームを作る。
『この色つきの粉糖をまぜるといろんな色のクリームが作れるんだよ』
「え、すごい!」
『あとシュガーアートのお花も持ってきたからクリーム少なめでもこれをつけたらかわいいかなと思って』
「二ノ宮さん、もしかしてこれって・・」
『お花だけだとかわいすぎるかなと思って、ラケットとテニスボールなんかも作ってみました』
型押ししたお花のようなシュガーアートと一緒に出したのは黄色いテニスボールとラケットのシュガーアート。
「ありがとう二ノ宮さん」
褒められるのは慣れてないから恥ずかしくなる。
っていうかふたりとも、ハンドミキサーなしなのに生クリームをホイップするの早くないですか。
「これくらいどうってことないよ」
「いいトレーニングになるな」
そのパワーリストは片腕5キロじゃなかったっけ?
「ゆずちゃん、これどうやってデコレーションするの?」
『こうやって、2色を1つの袋にいれてしぼると・・』
「わ!すごい!あじさいだ!」
『かわいいでしょ?』
「こっちは?」
『これはこうやっしぼると・・』
「わ!バラだ!わたしもやりたい!」
よーし、とうでまくりをしてまいちゃんはぎゅっと絞り袋をにぎる。
『あ、』
「ぎゃっ、」
「ふふ、赤川さんへたくそだね」
「力をいれすぎだ。25g程の力でにぎるのがベストだろう」
『わ、幸村くんも柳くんもセンスの塊だ・・』
まいちゃんのちょっと残念なクリームになったデコレーションとはちがい(まいちゃんいわくこれは練習だそうだ)、幸村くんも柳くんも初めてやったとは思えないほど綺麗なクリームだ。
『わたしまいちゃんのこのカップケーキがほしいな?』
「え、でもそれ・・」
『まいちゃんが初めてデコレーションしたやつだから、デコレーション記念にほしいな?』
「じゃあ俺のもどうぞ、デコレーション記念に。ね?」
「それなら俺のもやろう」
『わあ、うれしい!』
グループ内で一足はやくプレゼント交換だ。
「100万年待たずに二ノ宮さんの手作りケーキ食べられるのはうれしいな」
うわあ、そのことはもう忘れてください。
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