◎01
この前まで制服で通っていた場所に今日から私服で通うことになるなんて。
校門も校舎も違うけど、大学部には幼児教育学科のブン太と建築科の仁王くんがいるし高等部には赤也もいる。
ほんとにみんなバラバラになっちゃったんだなぁ・・・なんて最初はさみしく思っていたけど、わたしにもちゃんとお友だちが出来ました。
「なんか今日騒がしくない?」
ランチタイムが過ぎた3限終わりに大学部と短大部共通のカフェに行けば、なんだか人だかりができている。
ピークは過ぎたのになんだろうね?と話ながらお弁当組のわたしは開いている席がないかときょろきょろしていれば、人だかりからひょっこり出てきたのは見慣れた赤髪。
『あれ、ブンちゃん?』
「お、ナイスタイミング!こっちで一緒に食おうぜ!」
手招きされて近づけば、
『精市くん!!!!』
「来ちゃった」
ハートマークがつきそうなくらいいい笑顔で、小首を傾げながら言う精市くん。かわいい。
もともと3限までの日に3限が休講になったからわたしをびっくりさせようと内緒で来てくれたそうだ。
そうだよね、違う大学に行ったはずの精市くんと、学部が違うからなかなか揃うことのないブン太と仁王くん。
この3人がいればこうなるよね。
久しぶりに見たこの光景に納得しながら、お弁当を置かせてもらう。
ちょっと友だち呼んでくるね、と一旦抜けて戻れば「やだ、イケメンがいっぱいいる!」と大興奮だ。
『彼氏の精市くんと、幼なじみのブン太と、お友だちの仁王くんだよ』
「待って、ゆずの高校時代ってこんなイケメンパラダイスだったの!?」
『りっちゃん落ち着いて』
なぜか1人ずつ握手をしてキャーキャーしてるりっちゃんに、3人ともちょっと引いてる。
ごめんね、普段はとってもいい子なんだよ。
『精市くんお昼食べた?』
「ゆずのお弁当食べるよ?」
『えっ、ひとり分しかないよ?』
「大学のカフェもいいけど、やっぱり俺はゆずのごはんが食べたいな」
『あんなに豪華なカフェなのに?』
一緒にオープンキャンパスに行ったときのことを思い出す。
どこのレストランかと思えば大学のカフェテリアだと言うからびっくりしたのを覚えている。
「毎日が跡部基準だと舌が疲れるよ」
精市くんが跡部、と言った瞬間りっちゃんの眉がぴくりと動く。
「跡部ってまさか・・・精市君もしかして氷帝?」
「そうだけど・・」
「わたし幼稚舎から高校まで氷帝だったんだよね」
『えー!!!』
まさかの。
まだ知り合って1ヶ月くらいだし知らなかった。
県外とは聞いていたけど氷帝だったなんて。
世間ってほんとに狭い。
りっちゃんはイケメン大好きなのに跡部くんのことは対象外らしい(あの金持ちナルシシストとは感覚が合わない!)
「ゆずのことよろしくね、りっちゃん」
「もちろん!思ってたより早く彼氏紹介してもらえてうれしいなぁー」
『今度はりっちゃんの彼氏、紹介してね』
「えっ、あ、ハイ・・」
『なんだっけ?ふわふわでぽわぽわの羊みたいだけど、ほんとはとってもかっこいい人だっけ?』
「・・・それってジロくんじゃね?」
「ククッ、繋がったのう」
さっきまであんなかなきゃーきゃー言ってたのに、自分の彼氏のことになると真っ赤になって恥ずかしがるりっちゃんはなんて乙女なんだろう。かわいい。
「ほ、ほらゆず!はやく次の授業行くよ!」
『えっ、まだはやい・・』
「いーいーかーらー!」
『えええ〜〜〜』
「ふふ、いってらっしゃい。ここで待ってるから」
りっちゃんに腕を引っ張られ、わたしのお弁当を食べながらひらひらと手を振る精市くんに見送られて最後の授業に連れていかれたのだった。
『おなかすいた』
「ごめんごめん」
『精市くんともっとお話したかった』
「待っててくれてるんでしょ?」
結局なにも食べずに最後の授業を受けたのでおなかはぺこぺこだ。
荷物をかばんにしまってカフェテリアに戻ろうと廊下を歩く。
「二ノ宮さん!これ・・・」
カフェテリアの入口のところで話しかけられて振り返れば、さっきの授業で前の席に座っていた和田くんだ。
「さっき忘れたいったみたいだから・・」
『あ、ありがとう!』
渡されたのはお気に入りのシャーペンだ。
どうやらしまうのを忘れていたらしい。
わざわざ走って届けてくれた和田くんにお礼を言えば、れのちゃんはなんとも言えない顔をしていた。
「和田くんには気を付けた方がいいと思う」
『どうして?』
「女の勘?ゆずって普段ぽやぽやしてて危機感なさそうだし?」
『なにそれひどい』
(ねえ、ゆずに話しかけたあの男なに)
(さぁ?見たことねーし外部じゃね?)
(付き合ってること知っとる奴はゆずに近づかんじゃろ)
(ふーん、なんか気に入らないなぁ・・・)
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