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時は流れて3月。
寒い寒い冬の厳しい受験戦争を潜り抜けた精市くんも、4月からは氷帝大学の1年生だ。
わたしは立海の短期大学部の家政学科に進むことに決めた。


綺麗な青空。
高等部と中等部を繋ぐまだ蕾の桜並木。
もらったばかりの卒業証書と花束をかかえて、制服でこの道を歩くのは今日で最後だと思うとなんだかすごくさみしくなった。




『中学のときはね、この卒業式が終わったらブンちゃんと同じ学校に行けるからすっごくわくわくしてたの。でも今日はすごくさみしい』

「大丈夫、俺たちの繋がりはそんな薄っぺらいものじゃないだろう?」

『こんなにもみんな、バラバラになるんだね』

「今まで作り上げてきた思い出たちは消えない。いつまでも忘れないよ」

『そうだね』

「俺たちは仲間だ。集まろうと思えばいつでも会えるさ」

それに丸井の家は隣だろう?と精市くんが笑えば、そう言えばそうだった!とわたしも笑う。






『ねえ精市くん、あの木のところまで競争しよう!』

よーいどん!なんてフライング気味に走り出せば、すぐに精市くんに追い越された。




「遅いよ」

『精市くんがはやいんだよ』

「おいで」

広げてくれた腕のなかに飛び込めば、ぎゅうっと抱きしめられる。


初めて精市くんを見たのも、こんな綺麗な青空の日だった。
白い肌に映えるエメラルドのラインが印象的で、強い意思を感じさせる瞳にキラキラと光る汗。
それが眩しくて、わたしは一瞬で精市くんの虜になった。
今でも鮮明に覚えてる。




「ゆず、卒業おめでとう」

『精市くんも、卒業おめでとう』

「これから先も、きっと楽しくなるよ」

『一緒に楽しい未来をつくっていこうね』

約束のゆびきり。
まるで子どもみたいでふたりで笑う。












「ぶちょーもゆずも遅いっすよー!」

中等部のほうから赤也の叫ぶ声がする。
赤也を残して卒業するのは心苦しいけど、高校の2年間でたくましく成長した彼ならきっと大丈夫。




「ばっちり先輩たちが卒業証書もらうところ見たっすよ」

「おーおーえらいのう」

「仁王先輩がちゃんと制服着てるの見たの初めてかもしれねぇって感動したっす。丸井先輩は相変わらずガム噛んでたし」

「柳生がうるさくてかなわんかったからの」

「卒業式くらいきちんとしてください」

「まるでおかんじゃ」

「こんな手のかかる子供は嫌ですね」

こんな日までいつも通りで、胸に花をつけて卒業証書だって持ってるのにまだまだみんなと一緒にいられるんじゃないか、と錯覚してしまう。




「はやく焼肉行きましょー。俺もう腹ペコっす」

「今日は赤也のおごりだろい?」

「え"っ」

「冗談だって」

わしゃわしゃと赤也の髪の毛を撫でまわしてから歩きだしたブン太にジャッカルくん、ブン太と一緒になって赤也をからかって笑う仁王くんにそれを見守る真田くん柳くん柳生くん。
立海大テニス部は永遠だ。





「俺たちも行こうか」

精市くんの差し出した手を握る。
あたたかくて少しかさついたその手がだいすきで、ずっと離したくない、そう思ってぎゅっと力をこめた。






*END*






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