◎02
屋上庭園行ってみたかったからラッキー、なんて自分のと自分のより2倍はある大きさのお弁当箱を持って階段をのぼる。
朝、いつも通り幼なじみにお弁当を渡そうとすれば、今日は屋上で昼めし食うから持ってきてくんね?と受け取りを拒否されてしまったからだ。
いつも一緒にごはんを食べてるまいちゃんは部活の集まりがあるらしく、お昼休みになったらすぐにいなくなってしまったからひとりごはんにならなくてよかった。
ちなみにまいちゃんは女子バスケ部のエースらしい。
キイ、と音のなる少し重たいドアを開ければまぶしくて目を細める。
「ゆずおっせーよ!」
『え?ああごめ・・・えええええ!!!』
近寄ってきた幼なじみに腕を引かれ連れてこられた先には幸村くん、とテニス部の方々がいた。
「おー、ゆず久しぶりじゃのう」
『あ、仁王くんこんにちは』
相変わらずのきらきらの銀色の髪を揺らして声をかけてきたのは、よく幼なじみの家に遊びに来てる仁王くん。
っていうかなに幼なじみのキミはわたしを放っておいてもうお弁当食べてるの。
「やっぱゆずのからあげうますぎだろい」
『え、ありがとう』
「つーかゆずもはやく座って食べろよ」
『いやいやわたしすごく場違い感が・・』
ぐいっと腕をひかれて座ったものの(ちなみに幼なじみと幼なじみのダブルスパートナー桑原くんのとなりだ)、知らない顔がこっちを向いている。
『あっ、桑原くんきのうぶりです』
「昨日はありがとな」
昨日は幼なじみと桑原くんの実家のお店に夜ごはんを食べに行ったのだ。
「丸井君そちらの方は・・」
めがねに光が反射して目がよく見えない人がしゃべった。
わあ、キラーンってしてるよ!
「ゆず。俺の幼なじみ。シクヨロ」
口いっぱいにからあげ詰めて言われても、ぜんぶ単語だしぜんぜん紹介になってないよ。
『二ノ宮ゆずです。ブンちゃんとは家がとなりで、産まれたときからずっと一緒なんです』
「それはそれは失礼致しました。私は柳生比呂士と申します。仁王くんのことはご存知なんですね」
『仁王くんはよくブンちゃんのお家に来てたから話したことがあって』
「隣ってまさか、お菓子の家?」
柳生くんとの会話に割って入ってきたのは幸村くん。
でもまさか、わたしの家を知ってたなんて・・まあそこそこ目立つけど。
『ヘンゼルとグレーテルにでてくるままのお菓子の家なんです。でもなんで・・?』
「去年入院してたときにね、丸井がよくケーキを持ってきてくれたんだ。ケーキの箱もお菓子の家だったから珍しいなと思って丸井に聞いたら、隣の家がお菓子の家だって言ってたから」
そのケーキはいつも丸井と赤也がほとんど食べてたけど、なんて幸村くんが笑う。
なんていうかお見舞いのケーキなのにとても申し訳ない。
幸村くんの言うとおり、うちはお菓子の家のケーキ屋さん。
イートインもできるので休日のカフェタイムにはそこそこ混んだりもする。
「ああ俺もそこの洋菓子なら食べたことがある」
そう言ったのはさっきからノートにペンを走らせてる人。
あ、同じクラスのえーっと、柳くん?
覚えてる、去年決勝戦で・・
「赤也とダブルスを組んでいたのがこの柳蓮二だ」
『ブンちゃんこわい心読まれた』
「3日もすりゃ慣れんだろ」
「外部入学は全体の5%ほどしかいないからな。私立女子中学からレベルを落として立海を受験してきた、と生徒会でも話題になった。弦一郎も聞いているだろう」
「うむ、才女だそうだな」
弦一郎と言われたこの人も覚えてる。
最後コートに倒れこんだときに入らんかーって叫んでた人だ。すごいびっくりした。
わたし今まで生きてきたなかであんな大声出したことない。
「俺にケーキ作り教えてくれたのはゆずだから、ゆずの作るケーキは天才的にうまいぜ?」
「へえ、それはぜひ食べてみたいね」
『そそそ、そんなおそれ多い・・でもお店のはほんとにおいしいのでぜひ』
憧れの幸村くんにわたしの手作りケーキなんて100万年早いと思うんだ。
神のお口にあうような代物わたしには到底作れない・・・!
「ゆずちゃん心の声が駄々漏れじゃ」
『え、うそっ』
「黙ってればかわええのに残念な子じゃ」
『ぜんぶブンちゃんのせいだ!ばーか!』
今とっても、幸村くんの前で取り乱さない強いハートがほしいです。
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