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「ゆずに会いたくて来ちゃった」

『精市くんっ・・・!!!』

カランコロン、お店のベルを合図に入ってきたのは久しぶりに顔を合わせる彼の姿。






『お疲れさま』

カフェではなく自分の部屋に通してコトン、とテーブルにアイスティーとレモンパイを出せば、ゆずの部屋は久しぶりだな、なんてふわりと微笑む。





『もうすぐ全国大会だね』

今年も幸村精市温存戦法でここまできた。
今年こそは全国3連覇を、といつもハードな練習ももっとハードになり連絡をとる回数もぐっと減った。
でも、本気でテニスをしている精市くんの邪魔はしたくなくて少しの寂しさはあるけれどひっそりと応援を続けてきた。

お昼もお邪魔せず、精市くんとブン太のお弁当と差し入れを部室に置いて帰っていたのでまともに話をするのは久しぶりだ。
遠くから姿を眺めることはばっちり毎日していたけれど。





「今日、なんの日か知ってる?」

『きょう?8月14日だよね?』

うーん、と記憶をたどってみてもなにもひっかからない。
記念日でも誕生日でもない。





「これ、ゆずにプレゼント」

精市くんに渡されたのは、3輪のひまわりの小さなブーケ。



『わあ、かわいい!でも誕生日でもなんでもないよ?』

「今日はサマーバレンタインって言って、好きな人にひまわりを贈る日なんだって」

『そうなの!?でもわたし、精市くんにあげるもの用意してない・・』

「気にしなくていいよ、今もらうから」

そう言って、近づいてきた精市くんにくいっと顎を持ち上げられるとぺろりと唇を舐められた。





『・・・っ、』

「ごちそうさま」

『やだ、もう・・・っ』

「サマーバレンタインは男の子も女の子も関係なく大好きを言えるんだ。なんでも叶えられる日だからね。ゆずにキスしたかったからしちゃった」

『キスじゃなかった』

「キスがよかった?」

『精市くんのいじわる』

真っ赤になるわたしを見てけらけら笑う精市くんが恨めしい。
わたしはいつもこんなにどきどきなのに、どうしてそんなに余裕綽々なんだ。





「いじわるな俺はきらい?」

『・・・すき。すきだから、わたしだって』

キスしたかったよ、の言葉は飲み込んで精市くんの唇に一瞬触れるだけのキスを落とす。

たまには積極的に。
いつだかギャップ萌えは男心をくすぐるってブン太が言ってたはずだ。






「ーーーっ、」

『精市くん?なにか反応してくれないと恥ずかしいのですが・・』

3秒くらいフリーズしたと思ったら、手のひらで顔を押さえてうつむく精市くん。
ちらりと見えた耳が赤く染まっていて、どうやら嫌ではなかったらしい。




「ゆずのばか。あんなの反則だよ」

『積極的なわたしはきらいですか?』

「好きに決まってるだろう、ばか」

まったく、君は俺のことをどうしたいんだ。
そう呟いた精市くんに噛みつくようなキスをされるまであと3秒。




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