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冬休みも大晦日と三が日以外は部活があり、いつも通りブン太にお弁当を届けたしデザートの差し入れもした。
ちゃんと嫌じゃなかったと伝えたいし逃げたことも謝りたい。
でも幸村くんの顔を見るとどうしてもあのキスを思い出してしまい恥ずかしくてだめなのだ。
結局なにも言えないまま新学期になってしまった。




「先延ばしにしたら気まずくなるだけだろい」

『わかってるもん』

玄関で靴を履き替えながら、小さくため息をつく。
幸村くんにキスされたあとブン太に泣きついたのでずっと励ましてくれている。
ブン太のためにも、まずは幸村くんにおはようからだ。






『なんかきょう騒がしいね』

いつもより廊下にいる女の子たちが騒いでいる。
あちこちから聞こえる幸村くん、という声にどきっとする。
"クリスマスに女の子とアクセサリーショップに入る幸村くんを見た"という噂が流れてるらしい。


幸村くんが、女の子と、デート?






「ゆず?」

『ブンちゃん・・』

「なんかの間違いじゃねーの?幸村くんに彼女がいるなんて聞いたことねえし」

『そうだよね、ただの噂だもんね』

わたしが幸村くんから逃げたから、嫌われちゃったのかもしれない。
幸村くんの周りには魅力的な女の子がたくさんいる。
わたしなんてどこにでもいる、例えるならば少女Aだ。





「ゆず、しゃきっとしろい!」

ブン太にばしん、と背中を叩かれる。



「んなこの世の終わりみてーな顔すんなよ」

今度はぽん、と頭を撫でられて教室の前で別れた。







「ゆず、大丈夫?」

心配そうな顔でこっちを見るまいちゃんにも申し訳ない気持ちになる。



『たくさん相談にのってくれてありがとう』

「なに言ってるの、友だちなんだから当たり前でしょ!」

やっぱり友だちって心強い。
一緒に自分たちの席に行けば、幸村くんの席のまわりにはたくさんの女の子。
この光景は関東大会や全国大会のあとに見たことはあったけど、今日は噂のせいだろう。

これじゃあ今日は、おはようも言えそうにない。






『まいちゃんごめん、ちょっと気分が悪いから保健室行ってくるね』

「・・・うん」

どうしても聞きたくなくてかばんも持ったまま保健室に向かう。
ああまた逃げてしまった。
どうして恋ってこんなに苦しいんだろう。















『もうどうすればいいのかわからなくて。それに彼女がいるかもって噂まで聞いちゃって・・』

「それで二ノ宮さんこの世の終わりみたいな顔して入ってきたんだ」

保健の先生にまで言われるなんてよっぽどひどい顔してたのだろうか。






「先生も噂を鵜呑みにするのはよくないと思うな。幸村君の口から聞いた訳じゃないんでしょ?」

『え、なっ、わたし、名前だしました!?』

「言わなくてもわかるよー、二ノ宮さんと幸村君のこと見てれば」

先生の入れてくれた温かい紅茶をひとくち飲む。
学校に来てからずっと緊張してたからか、なんだかすごくほっとした。




『幸村くんのことがすきなんだって気付いて、恥ずかしいけどすごくしあわせな気持ちになりました。おそろいみたいなてぶくろもうれしくて、キスも・・びっくりしたけど嫌じゃなくて。ただ、幸村くんがどういう気持ちでしたのかがわからなくて気付いたら涙がでてて、つい、って言った幸村くんの表情がすごく優しくて、かっこよくて、どうすればいいのかわからなくて』


「うんうん、その素直な気持ちをそっくり幸村君に伝えればいいんじゃないかな」

『でも、幸村くんの前だとうまく言えなくて』

「ゆっくりでも泣きながらでも伝えなきゃ。幸村君はその気持ちをちゃんと受け止めてくれる人だと思うんだけどな?」

先生の言う通りだ。
幸村くんに拒否されたことなんて、今まで1度もなかったはずなのに。





「恋をすると臆病になるんだよ」

『先生もですか?』

「そうだね、こんな偉そうなこと言ってるけどいくつになっても臆病かもしれない」

ちょっと寝て元気になったら教室戻ろうね、とベッドを用意してくれた先生に甘えて始業式はお休みすることにした。
起きたらちゃんと、幸村くんに好きだと伝えるんだ。




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