◎22
『いらっしゃいませ、整理券を拝見します。何名様ですか?』
文化祭2日目。
今日は一般公開もあるため、昨日よりも人が多い。
整理券も多くだしているらしくキッチン担当のわたしも急遽受付を手伝っている。
『いや、あの、ちょっとそういうのは・・・』
「いいじゃんこのあと一緒にまわろうよ?」
ふりふりの短いメイド服にニーハイ。
こういう時だから仕方ないのかもしれないが、なぜかチャラチャラした人にとても絡まれます。
『ちょっと!やめてください!』
ぺらっとスカートを捲ろうとした手を払う。
こっちは怒ってるというのにへらへら笑いやがって。
「失礼致します。彼女はまだ仕事が残っておりますのでお引き取り願えますか?」
間に割って入ってくれたのは幸村くん。
なんていうか、このシチュエーションすごくいい。
まさにヒーロー登場だ。
「なんだよお前には関係ねーだろ」
「お 引 き 取 り 願 え ま す か ?」
相手に有無を言わせないあのちょっとこわい笑顔に、チャラチャラ軍団は舌打ちしてどこかに行ってしまった。
『幸村くん助かりました。ありがとう』
「変な奴も紛れ込んでるだろうし、困ったら俺を呼んで」
『うん、ありがとう』
「ゆずもこのあと休憩だろ?一緒にテニス部見に行かない?」
どうやら幸村くんはわたしに休憩を伝えに来てくれたところだったらしい、ナイスタイミングだ。
幸村くんの嬉しいお誘いに、お互い1回制服に着替えてテニス部が縁日をやっているという中庭に向かった。
『わあ、すごい!』
わたあめ、焼きそば、タピオカドリンク、射的、意外と本格的なラインナップにびっくり。
焼きそば焼いてるジャッカルくんすごく似合ってる。
「ゆず、わたあめ食べる?」
『食べる!』
そう答えれば、腕まくりをした幸村くんがくるくる器用にわたあめを作ってくれる。
わーい、幸村くんのお手製わたあめ、高そうだ。
『3万円くらいしますか』
「っあはは、300円だよ」
『わあ、お安い!』
はむ、と一口食べればただのざらめのはずなのにすごくおいしく感じた。
「あっちで真田がタピオカ作ってるらしいよ。冷やかしにいこうか」
『真田くんがタピオカ』
これまたなんともミスマッチな組み合わせだ。
あの真田くんがタピオカミルクティーとか作ってるのか、すごい。
「あれは、」
タピオカブースに行けば、学ランを着た男の子5人組がなにやら騒いでいる。
「真田さんもっとタピオカ入れてくださいよー、サービスサービス!」なんて、真田くんと仲良しなのかなあの人。
「やあ、不二も来てたのかい?」
『え、幸村くんも知り合いなの!?』
幸村くんに不二、と言われたのはさらさらな髪の毛をした男の子だ。
あれ、なんか見たことある気がしなくもないぞ。
「久しぶりだね」
「まさか来てるとは思わなかったよ」
「乾が柳から入場券もらったらしくてね、みんなで来たんだよ。今は別行動してるけどね」
幸村くんと不二くんはなんだか雰囲気が似てる。
不二くんもお花とか似合いそうだ。
「ねえねえ、その子は幸村の彼女かにゃ?」
『にゃ?』
不二くんの後ろからひょっこり現れたのは猫みたいな人。
菊丸くんと言うらしい。
高校生にもなって語尾ににゃをつけるのは菊丸くんくらいだろうな。びっくり。
「まだ彼女じゃないよ」
『まだ?幸村くんそれはいったい、』
なんか菊丸くんにやにやしてるんですけど。
「もっもしろー、おっちびー、幸村の未来の彼女がいるにゃー」なんて言いながら残りのお友達を呼びにいく。
ちょっとちょっと、幸村くんも笑ってないで訂正してくださいよ!
真田くんにタピオカ増量のおねだりをしていたのが桃城くん、隣で焼きそば食べてるのが・・・あ!
『思い出した!』
「え、ゆず気づいてなかったの?」
『見覚えあるなーとは思ってたけど』
越前くん、中学のときに幸村くんと決勝であたったあの子だ。
『越前くんって、まだ中学生だよね!』
「そうっすけど」
身長抜かされてるんですけど!
2年前はあんなに小さかったのに、男の子の成長期恐るべし・・・!
「来年こそは俺たちが3連覇達成してみせるよ」
「それはどうかな」
うんうん、いいライバルってかんじ。
今から来年の全国大会がたのしみだな。
『真田くんタピオカミルクティー2つください』
「二ノ宮か」
『お疲れさまです』
制服に黒いエプロン姿の真田くんはなかなかレアかもしれない。
真田くんとタピオカって組み合わせはシュールだけど。
「600円だ」
『ありがとう』
「二ノ宮のクラスは盛況みたいだな」
『幸村くんと仁王くん効果だよ』
「二ノ宮の作る菓子の評判も良いらしいぞ」
『そうなの?うれしいなぁ』
たくさん作ったし余るだろうから、そしたら真田くんにも差し入れてあげよう。
真田くんから受け取ったタピオカを2つ持って幸村くんのところに戻る。
あれ、青学のひとたちいなくなってる。
「他のみんなと合流するらしいよ」
『そうなんだ。あ、これ幸村くんのね』
「ありがとう」
ふたりでストローを咥えながら次はどこ行こうか、なんて考える。
「ゆずってホラー平気?」
『ぜんぜんだめ。まったくだめ。』
「じゃあホラーハウス行こうか」
『ひえっ』
3年生のクラスに超本格的なホラーハウスがあるってきのうブンちゃんが言ってたけどまさかまさか。
行きたくないって顔で幸村くんを見たけど、すっごく楽しそうな笑顔でかわされてしまった。
「大丈夫、なにがあっても俺がついてるから」
『かっこいいこと言ってるけどぜんぜんうれしくないよ!』
わたしの抵抗むなしく連行されましたとさ。
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