◎19
去年もそうだったが、今年もわたしのクラスメイトはいい人たちばかりだ。
テニス部のメンバーとも平等に接し、この前の球技大会のあともみんなすごく心配してくれた。嬉しい。
すっかりくちびるの傷も治った夏休み、今日は美化委員の水やり当番のために制服で学校に来ていた。
太陽に向かってぐんぐん伸びるひまわりに背を抜かれたのはもうずいぶん前のことだ。
星形の花びらがかわいいペンタスの花言葉は願い事だと教えてくれた幸村くんはけっこうロマンチストなのかもしれない。
テニス部の全国2連覇の願いをかけて、他の花以上に大事に愛情を込めたペンタスもきれいに咲き誇っている。
『よし、』
きゅっと水道の蛇口をしめて、いつも通りお弁当を持ってテニスコートに向かおうと立ち上がろうとしたときに首筋にぴたっと冷たいものがあたる。
『ひゃっ!』
「水やりお疲れさま。任せちゃってごめんね」
『ゆ、きむらくん・・!びっくりした』
「暑かっただろう?」
もうすぐ全国大会を控えて部活も忙しい幸村くんの代わりに水やりくらいは任せてもらおう!と約束というか、一方的にそう言ったのはわたしだ。
どうぞ、と冷たい缶のミルクティーを差し出す幸村くんはちょこっと水やりしただけで汗がにじむわたしとは違ってすごく爽やかだ。
『ありがとう。テニスコート行くのが遅かったかな?』
「俺がちょっと早く抜けてきたんだ。ゆずと話がしたくてね」
『え?なにかあったの?』
「なにかないと話しちゃだめなのかい?」
『・・?』
夏休みになってもほぼ毎日、それこそ部活のあるときは顔をあわせているのにへんな幸村くんだなぁ・・と思いながら歩いていれば、すごい勢いでこっちに走ってきたもじゃもじゃ。
かわいいかわいい赤也だ。
「ゆずー!!!!」
『どうしたの?』
「今日のデザートなんすか?!」
『今日は夏みかんのゼリーだよ』
「っしゃ!俺の勝ちっすね丸井先輩!」
「ゆず昨日マカロン作ってたからぜってーそれだと思ってたのによい」
話を聞いてみると、どうやら今日のデザート予想をしてたらしく負けた方は勝った方にデザートを譲るらしい。
そんなことしなくても、2つ食べたければあげるのになぁ。
『幸村くん疲れてる?』
「え?」
『なんかいつもより顔色悪くない?』
外のスポーツなのにもともと色白な幸村くん。
でも、なんとなくいつもより青白く感じるのは気のせいだろうか。
「夏バテかな。最近ちょっと食欲がなくてね」
『ありゃ。それは大変だ』
毎日あれだけ動いて汗を流してるのに、ご飯が食べられないのは大問題だ。
「よくわかったね」
『毎日幸村くんのこと見てるからね』
「ふふっ、嬉しいな」
幸村くんの体調不良はとても心配だ。
ちらりと脳裏に浮かぶのは、幸村くんが倒れたと言ってきたときのブン太の泣きそうな顔。
もうあんな顔は見たくないし、幸村くんに倒れてほしくない。
『全国大会で幸村くんの試合見るの、すごくたのしみにしてるよ』
「うん」
『でも絶対無理しちゃやだよ』
「ありがとう」
『よーし、明日は幸村くんにもゆずちゃん特製弁当作ってあげる!』
幸村くんの手を握ってブンブン振れば、子供みたいって笑われる。
全国大会まであと1週間だ。
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