14





『ブンちゃん助けてえええ!!』

あとは寝るだけのパジャマ姿でブン太の部屋の窓を開ける。
困ったときの幼なじみ、丸井ブン太だ。




「うるせーな、こんな時間になんだよい」

『服が決まらないの』

「あー、幸村君とのデートな」

『デートじゃないもん』

「男と女がふたりで出かけりゃデートだろい」

『ううう、』

こうなったのも数日前。
春休みになって1日部活のブン太にいつも通りお弁当を届けに行ったときのことだ。




「ゆず、あさってなんだけどなにか予定ある?」

『特にないよ?なにかあるの?』

「これ、ゆずが見たいって言ってた映画だよね?ペアチケットがあるから一緒にどうかなと思って」

幸村くんの手には1枚のチケット。
前から公開を楽しみにしていた某WD社のプリンセスものを実写化したものだ。
しかもこれ、特別ノベルティ付きの限定チケットだ!
すごい、どうやって手に入れたんだろう。



『わあ、いいの!?』

「ふふ、じゃああさっての11時に迎えに行くね」

『うん、ありがとう!たのしみにしてるね!』

このときは映画が楽しみで全然考えてなかったけど、冷静になってみて幸村くんとふたりきりだって気づいてしまったのだ。
それからずっと悩んでるのになにも決まらない。
服は?くつは?かばんは?髪型は?メイクは?
そもそもメイクなんてたまにしかやらないからなぁ・・。



「うわっ、きったな!」

ブン太を自分の部屋まで引っ張ってくれば、あちこちに投げられた服たちに若干ブン太が引いてた気がしなくもない。
でも今はそれどころじゃないの!



「このスカートにこれ着てこのコートは?」

『スカート短くないですか』

「デートっつったらスカートだろい。制服より短いくらいがちょうどいいんだよ」

『恥ずかしいよ』

「くつはこれな」

『無視か』

「んで、かばんはこれ」

服の山の中から渡されたものは、スカートにニットとショート丈のコートとショートブーツだった。
わたしが普段選ばないような組み合わせだけど確かにかわいい。
でも男の子と出掛けるにしてはスカートが短い気がしてならないのだ。脚がまる見えですよ。
まあ、ブン太以外の男の子と出掛けるの初めてなんだけど。



「11時集合ならメシ食うだろうから、髪はハーフアップにするか・・・いや、そのままでいいか。あと絶対化粧はすること!」

『はーい』

「んじゃ早く寝ねーと肌荒れすんぞ」

『わ!寝なきゃ!』

時計を見ればもうすぐ1時だ。
散らかしまくりの服はブン太がほとんど畳んでくれていた。
見た目に合わず面倒見のいいお兄ちゃんだなぁ・・・なんて思っていたら楽しんでこいよ!なんてウインクして帰っていった。
ブンちゃんかっこいー。









*****



「おはよう、行こうか」

わざわざお店じゃなくて自宅のほうのチャイムを鳴らしてくれたのに、出てきたお母さんとブンちゃん(わざわざ待ち構えてた)に冷やかされながら(ゆず、しっかりやるのよ!)(デート頑張れよい!)映画館に向かう。



『なんかごめんね、お母さんとブンちゃんが』

「ほんとに丸井と仲良しだね 」

『生まれたときから一緒だからね。昨日もなに着ようか悩んでたらブンちゃんが手伝ってくれて』

「なんか妬けるなぁ・・・」

あ、またやけるって言った。
やけるってなんだろう?



『幸村くん、この前も言ってたけどやけるってなに?』

「ふふ、丸井が羨ましいってことかな」

『え?』

「春休みだし駅前は人が多いね。はぐれちゃだめだよ」

そう言うとわたしの右手を取ってにこっと笑う。
わあ、手、繋いでるよ・・・!



『ゆ、幸村くん、手・・』

「いやだった?」

『いや、じゃ、ないです・・・』

絶対いま真っ赤だ!
手あせやばいかな、どうしよう。
幸村くんの手、白くて細くて綺麗だなぁ。
しかもあったかい。



「映画は1時半からだから、先になにか食べようかと思うんだけどいいかな?」

『うん、いいよ』

「俺のおすすめのカフェがあるんだ。きっとゆずも好きだと思う」

映画館の近くにあるそのカフェは裏路地にあるのでランチタイムなのにそこまで混雑してなくていい感じだ。
ゆったり流れるクラシックに、看板メニューは昔ながらのバターがたっぷりのパンケーキらしい。おいしそう。
幸村くんはハンバーグのランチプレート、わたしはパンケーキと紅茶を注文する。



『わあ、すごい!』

運ばれてきた3段の分厚いパンケーキにはたっぷりのシロップとバター。
好みでいちごジャムとホイップクリームもつけられるらしい。
幸村くんのところにもランチプレートが運ばれてきたところで、一緒にいただきますをした。



『おいしい!』

「それはよかった」

『幸村くんありがとう、素敵なお店教えてくれて』

「カフェタイムはケーキセットもあってね、ガトーショコラが甘さ控えめですごくおいしいんだよ」

『そうなの?じゃあ今度また幸村くんと一緒に行きたいな』

「ふふ、また来ようね」

ごはんを食べたらちょうどいい時間で、また手を繋いで映画館に向かう。
ほんとにデートみたいだ。
幸村くんのアイスカフェラテとわたしのアイスティーを持って席につく。
真ん中よりすこし後ろのど真ん中、すごくいい席だ。
映画はアニメ版と少しだけ内容の改編はあったけどすごく素敵だった。
王子様とのキスシーンはちょっと恥ずかしくて、思わず幸村くんの方を見ればばっちり目があってしまった。恥ずかしい。



「はい、これ」

幸村くんに渡されたのはこの映画のノベルティでもらえる、映画のプリンセスのクリスタルの置物だ。



『わ、かわいい!』

箱に入ってはいるけど、壊れないようにとタオルでくるんでかばんにしまう。



「まだ時間大丈夫?」

『うん、平気だよ!』

「じゃあちょっと買い物に付き合って欲しいんだ」

映画館に併設されたショッピングモールの2階、幸村くんがにこにこしながら見てるのはレディース服だ。
妹ちゃんにあげるのかな?



「うーん、やっぱりこっちかなぁ・・・」

4店舗みたところで最初のお店にまた戻る。
最初に見たものって結局戻りがちだよね。



「ねえゆず、ちょっとこれ着てみてくれない?」

『わたし?』

手渡されたのは白地に花柄のワンピースだ。
でも、わたしが着て妹ちゃんのイメージわかるのかなぁ・・・。



『どう、かな・・・?』

試着室のカーテンを開ければ、満足そうに頷く幸村くん。
どうやらいい感じらしい。
そのあともワンピースに合う上着やくつまで選んだところでモールの中の最近オープンしたタピオカドリンクのお店でちょっと休憩だ。




『妹ちゃんにあげるんだよね?わたしなんかが着てみてよかったのかなぁ・・』

「ふふ、違うよ。これはゆずに着てほしくて買ったんだ」

『えっ!』

「今日の服は丸井が選んだんだろう?そしたら今度は俺の選んだ服着てデートしたいなと思って」

だめかな?と聞く幸村くんに、ワンピースに上着やくつにけっこうお値段した気がするからもらえないとか思ってたのに言えなくなってしまう。
今度なにか違う形でお礼をしよう。



「俺からの誕生日プレゼント。1日早いけどね」

『あ、ありがとう!ほんとはこんな高いのもらえないとか思ってたのに、嬉しくて断れなくなっちゃった』

「気にしないで、俺がしたくてやったんだから。あとこれ」

幸村くんに渡されたのは小ぶりな花がいくつもついたかわいい髪どめ。
幸村くんの選んだワンピースにもぴったりだ。



「こっちはホワイトデーのお返し」

『映画に連れていってくれただけでも満足なのに』

「映画は俺がゆずと出掛けたかっただけだから、それだとお返しにならないだろう?」

『たくさんもらってばっかりで、わたしも幸村くんにお返ししたいな』

「また俺とデートしてくれればそれでいいよ」

『わたしはいつでも!またあのカフェにも行きたいし、今度はわたしのおすすめのお店教えるね』

「楽しみにしてる」

ショッピングモールを出たのはだいぶ夕陽が落ちて薄暗くなって来た頃。
10分も歩けば家に着いてしまう。



『幸村くん、今日はほんとにありがとう』

「こちらこそ。俺もすごくたのしかったよ」

『明日また、テニスコートにお弁当届けに行くの。よかったら幸村くんのお弁当も作っていいかな・・?』

「ほんと?嬉しいな。じゃあ、また明日だね」

『うん、送ってくれてありがとう。帰り道気をつけてね』

ばいばい、と手を振って幸村くんの姿が見えなくなるまで見送ってから家に入った。






「なーににやにやしてんだよぃ」

『わ、ブンちゃん!見てたの?』

「バッチリ」

それから今日のことを話せば、ブン太も嬉しそうに笑ってくれた。
さて、明日のお弁当の準備をしなきゃ。
明日は幸村くんに合わせてブンちゃんもお魚メインにしちゃおうか。




prev next

back home


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -