08





季節はもうすっかり秋、今日は体育祭の種目を決めるために5・6限がホームルームになっている。
体育祭やだなぁ・・中学のときは家庭科部としてお菓子作りや刺繍などをやっていた典型的文化系のゆずにとって、走るのは苦手。
いや、走るのもとぶのもぜんぶ苦手なんだけどね。
そのせいか、肌の色も白く日に当たるとすぐ赤くなってしまうのだ。




『ぜんぶ補欠とかだめかなぁ・・』

「クラス全員リレーを除いて1人1種目は必ず出ないとだめなんだよ」

『えー』

まいちゃんは女子バスケ部ってこともあって体育祭待ってました!なかんじだ。
その気持ち、少し分けてくれないかなぁ。




「障害物競争は?」

『跳び箱とべない』

立海の障害物競争は平均台の上を走り6段の跳び箱をこえなければならないのだが、そもそも助走から苦手なのに6段もとべるわけがない。
はぁ、ときょう何回目かのため息をついた。




「借り物競争なんてどうかな?」

『幸村くん・・』

「それなら足の速さはあまり関係ないんじゃないかな?」

「そうだよ、早く借り物が見つかれば1位だってとれるかもしれないよ」

『うーん、じゃあそれにする。幸村くんはなににでるの?』

「俺は騎馬戦と部活対抗リレーかな」

『柳くんは?』

「俺も精市と同じだ。精市は中学1年のときに騎馬戦の無敗記録を持っているからな」

『ま、まさか、五感を・・』

「やだなぁ、体育祭の騎馬戦ごときで奪ったりはしないよ」

ふわりと笑みを浮かべて言うけれど、きっとあのもみくちゃの騎馬戦でも爽やかな笑顔でかわしていくんだろうな・・。
柳くんのデータもあれば勝つことは間違いないだろう。




『どうしてクラス全員でリレーなんてやるのクラスが多いんだから代表だけでいいのに』

「5クラスずつやって、上位3クラスでもう1回走るんだよ」

『えっ、じゃあ勝ち残ったら2回走るの・・むり』

「このクラスの50メートル走のデータがあるから俺がそれをもとに順番を決める。ちなみに二ノ宮はクラスで最下位だったぞ」

『言われなくてもわかってますー』

「二ノ宮さんがどんなに遅くても、俺が巻き返すから大丈夫だよ」

わお、なんというイケメン発言だろう。
でもいまさら走る練習とかしても無駄だろうから、転ばないようにがんばろう。





*****




あっという間に体育祭当日。
風も少なくて11月にしてはあたたかいぽかぽか陽気だ。
入念に日焼け止めを塗ってから開会式のために応援テントから出た。




『まさか最初が借り物競争だなんて・・』

「いいじゃん早く出番が終わって」

『そうだけどさぁ・・・お題なんて書いてあるんだろう』

「中学のときはけっこう変なのがあったよ。担任の靴下とか」

『ぜったいむり』

おしゃべりしながら準備体操も終わり、ゆずは借り物競争のスタンバイのために入場口のほうに向かう。
どうかふつうのお題でありますように。
第3走者のため、あっという間に自分の番がきて、2レーンのスタート位置に立つ。
パン!というスターターの音にびっくりして、出だしから少し遅れてしまった。



(やばいやばい、封筒とるのいちばん最後じゃん!)

封筒を開けて中のお題の紙を見る。
そこにはなんとも抽象的なことが書いてあった。
もっとわかりやすくめがね!とか帽子!とかにしてよ!
ええとええと、お題を手に持ったまま周りを見渡す。
落ち着け落ち着け、当てはまる人は・・・





『っあ!幸村くんっ!お願いします!』

目があった幸村くんのところに駆け寄ったら、逆にぐいっと腕を引っ張られる。




「転ばないでね」

そう言われるとなかばわたしのことを引きずるように走り出す。
わあ、はやいはやい、わたしの足もこんなに早く動かせるんだ・・!
もつれそうになる足をなんとか動かしながら感動する。
幸村くんに握られてる腕がものすごく熱いのがわかる。
そのまま2位でゴールした。



「ごめんね、1位にしてあげられなくて」

『とんでもない・・・っ、こんなに、はやく走ったの、はじめ、て・・っ』

ぜえはあ、苦しい呼吸を整えながら言うわたしとは反対に、息切れひとつしてない幸村くんが笑う。



「お題はなんだったの?」

『青、だよ。わたしには幸村くんの綺麗な髪しか浮かばなくて』

「えー、俺でいいのかなぁ。ハチマキとかタオルとか他にもあったのに」

『お題を取ったひとの主観でおっけーです』

真っ先に浮かんだのは、幸村くんの少しくせのあるきれいな髪の毛。
そしたらもう幸村くんの髪以外青いものが浮かばなくなってしまったのだ。
すぐ見つけられるところにいてくれてとても助かりました。ありがとう。





お昼前最後の競技は、全員リレーの予選だ。
各学年A〜E組、F〜J組にわかれて予選をする。
1年からスタートなのでB組はすぐだ。


『緊張して吐きそう』

「大丈夫だよ、二ノ宮さんがどんなに抜かされても俺が挽回するからね」

足の遅いわたしは、柳くんからバトンを受け取って幸村くんに渡すというなんとも贅沢な順番だ。
幸村くんの頼もしいひとことで少しだけリラックスできた気がする。


「じゃあまた、バトン待ってるよ」

自分と反対側の立ち位置に向かう幸村くんに手を振る。
さあ、がんばるぞ!


ぱん!というスターターの音で第1走者が走り出す。
やっぱり立海は文化部より運動部の方が活躍してるし、みんな足が速いなぁ・・。
入試に50メートル走なんてあったらわたしは確実に落とされていただろう。
あ、そろそろわたしの順番だ。


前の人がいなくなったレーンに並ぶ。
わあ、柳くん速い。
2人抜いて1位になってこっちに迫ってくる。
ちょっとまって速すぎてこわい。
ぶ、ぶつかるううう!



「二ノ宮、走れ!とまるな!」

『わ、あ、っ』

ついうっかり見とれて走るのを忘れていた。
真顔で迫ってくる柳くんに言われて走り出すが既に遅く、3歩くらいでバトンを受けとる。
あんなスタートになってしまったため、(もともと足は遅いんだけど)3人に抜かされてしまった。



「二ノ宮さんがんばれ!」

にっこり笑う幸村くんにバトンを渡す。
しっかりと受け取ってくれた幸村くんは、任せて、と言うとどんどん離れていった。



「ゆずが走り出さないからどうしようかと思ったよ」

リレーのあとまいちゃんに呆れ顔で言われてしまった。



「一番どうしようかと思ったのは俺だがな」

『柳くんほんとにごめんなさい・・』
「まあまあ、そんなに二ノ宮さんを責めたらかわいそうだよ。結果1位だったんだからいいじゃないか」

ぽんぽん、と頭を撫でられる。
幸村くんの言葉通り、挽回してくれて1位でゴールできたのだ。
うれしいけど、午後また走らなきゃいけないのは憂鬱だなぁ。



「二ノ宮さん、午後もがんばろうね」

『・・・っはい!』




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