◎02
ぽかぽか、梅雨の長雨が嘘のように3日前から晴れの日が続いている。
そういえば昨日はずっと空き部屋だったとなりに誰か引っ越してきてたな。
公認会計士として働く蓮二のオフィスで事務の仕事をはじめたのはハルトが1歳になった頃。
高卒でたいした資格のないわたしを拾ってくれたのだ。
そのときに駅近で立地のいいこのマンションを社宅だ、なんて言って格安で住まわせてくれた彼には一生頭があがらないなぁ・・・なんで考えながらぽかぽかのひなたでハルトとお昼寝をしていたら。
ピンポーン。
「まま、だれかきたよ」
『ん…なに…?』
「ピンポンなったよ」
段々と覚醒してきた意識に、あぁ今日はハルトが先に起きたんだね、なんて考える。
「ぼくがでるね!」
とたとたと走っていくハルトに慌てて起き上がれば、その後を追ってわたしも玄関に走る。
なんでも自分がやりたいお年頃だ。
『あ、ちょっと、確認してからじゃな、きゃ…』
「隣に引っ越してきたんで、挨拶に来たんじゃ、が…」
ぴたり、時間が止まったような、そんな感覚。
なんでだろう、息ができない。
『ゆず…』
「まま、しってるひと?」
『あ、あの、えっと…』
「そうじゃ、ままの友だちじゃ。お前さん、名前は?」
「ハルトだよ、3さい!」
『そうか、ハルトか。俺は仁王雅治じゃ。これからよろしくの』
「うん!」
ハルトと雅治が話している間わたしは動くことが出来なくて、気付けばもうドアは閉まっていた。
「まさはる、ぼくとちがうことばだったね」
『・・・・・』
「まま?ないてるの?いたいの?」
『…大丈夫だよ、ごめんね』
どうして今さら、こんなこと。
嫌でも昔を思い出してしまう。
『ハルト、』
「なあに?」
『ううん、なんでもない』
あなたのお父さんは、あの人なんだよ。
言ってあげられたら良かったのに。
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