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『幸村くん、アメリカってたのしい?』

「なに急に」

『わたしもアメリカ行こうかなぁ・・』

「俺のところ、お嫁にくる?」

『幸村くんが旦那さんだったらしあわせだろうなぁ・・』

ぽつり、そんなことを呟いたら幸村くんはにやりと楽しそうに口角をあげる。





「じゃあこういうのはどう?」

幸村くんの提案にわたしは首を縦に振った。
















* * * * *









「は?引っ越した?」

長かった撮影も無事終わって1ヶ月ぶりに帰ってきた自分の部屋。
ゆずになにから話そうか、ずっとそればかり考えとったのに。
帰ってきたら隣は空き部屋になっていた。







「なんで教えてくれんかった」

「ゆずが仁王には言わないで欲しいと言ったからな」

部屋に荷物を投げ入れて、急いで向かったのは柳のオフィス。
でもそこにもゆずの姿はなくて、いつも座っていたゆずのデスクはやたらとこざっぱりとしていた。





「ここも辞めたんか」

否定とも肯定ともとてる曖昧な表情に苛立ちがつのる。






「ゆずはどこ行ったんじゃ・・」

「ゆずは今、精市と暮らしている」

「は?」

「フロリダだ」

幸村とフロリダ?なんで?ハルトも一緒に?
確かにゆずと幸村はけっこう仲がよかったと思う。
でもわざわざ幸村を追ってアメリカに行くほどか?
一緒に住むほどか?







「・・・いつから」

「もう2週間程前からか」

ギリギリと噛みしめた奥歯が痛い。
苛立ち、後悔、そして悲しみ。








「ゆずはそこまでして俺から逃げたかったんか・・」

「あのとき、仁王のいない世界に行きたいとゆずは泣いた。冷静になって考える時間が必要だったんだろう」

「ゆずが居らんのなら、この仕事も続ける意味がなか」

ゆずが頑張れと言ったから、ずっと応援してると言ったから、メディアに出ればゆずの目に映ることができるからと続けてきたこの仕事。
ゆずと別れてからもいつかまた会えると信じてたから、もっと立派になって迎えに行こうと思ってたから。






「ゆずは覚えていたぞ」

「なにを?」

「お前がキスシーンやラブシーンをやらないことを」

「・・・!」

それはまだゆずと付き合ってるとき、ラブロマンスものの映画にちょい役だが出ることが決まったって話をしたらぼそっと「雅治のキスシーン見たくないな」と言ったこと。
それからはゆずが見たら悲しむから、キスシーンやラブシーンのないドラマや映画にばかり出ていた。
専属の雑誌でセックス特集なんて組まれようが、絶対に女と絡んだりはしなかった。
それは付き合ってるときも別れてからもずっと変わらず。
全部、ゆずのため。







「わたしが雅治の可能性をつぶしてしまった」

「え?」

「ゆずはいつもそう言っていた」

どうしてこうも想いがすれ違ってしまうのか。
俺は可能性が潰されたとも、それが息苦しいとも感じたことはなかったのに。






「・・・くそっ、」

ダン、と壁を殴れば「穴開けるなよ」と返す柳が冷静すぎて全然苛立ちはおさまらなかった。




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